バーモス、とエルマーノが言った。それは仲直りの合図でもあったので行くことにした。魚を捕りに川に行くのだ。先日一緒に修理したぼろぼろの網を持っていく。パパも同行した。おまけに生まれて間もない子犬2匹も元気についてきた。大体こういうときいつも汽車の線路上を歩いていく。すぐ横には普通の道路があるのだが、なぜか線路上を行く。途中線路は川の上を走っていて、底の橋板が一部抜け落ちているところがある。恐る恐る通る。子犬2匹はその手前でエルマーノとパパが一匹ずつ捕まえて渡った。
途中から山道に入り、しばらく歩くと川に出た。ここは浅瀬で魚はいないので、先に進むために横切らないといけない。履いていたサンダルを脱ぎ、渡る。子犬たちは手前で騒ぎながら立ち止まっていた。パパが一匹ずつ捕まえて川に放り投げると、少し川水に押し流されながらもキャンキャン泣きながらなんとか泳ぎきり向こう岸にたどり着いた。この日彼らはこのようにしておそらく3、4回川を泳いだ。
川を左に見ながら薮だらけの岸を歩く。地面はやわくぬかるんでいる。途中また山道に入り、周囲は密林のような様相を呈す。面前に立ち尽くす薮や木を払いのけ突進しながら、「まさにミッション・インポシブレだな。ありえねーよ」と一人つぶやいて笑ってしまう。魚捕まえに来てこれかよみたいな。そんなこんなでようやく着いた。エルマーノが川に入り、網を両岸に固定してかけてきた。そうして、少し遠くから網に向かって歩きながら、両腕で川水をバチャバチャ打ち立てていく。網の方向に魚を呼び込もうというのだ。
パパは「ちょっと涼むよ」と言って、上半身だけ裸になり川に入り水浴びを始めた。俺はつきまとう蚊を振り払うのでへとへとになっていた。子犬は疲れきって俺の足元で眠っていた。俺も川の中に入りたかったが替えのGパンがないので我慢して、足だけ水につかり、顔などを洗った。あがって少し歩いているとひどくぬかるんでいる地面に足をとられ、引っこ抜いたらサンダルの緒の部分が少し傷んだ。ここまでうまくいっていたのにと少しブルーになる。大体山や川にサンダルで行く馬鹿がいるかと思う人もいるだろうが、スニーカーはもったいないからと家族が勧めたのだから仕方ない。
結局網に魚はかからなかった。いくつかその後も歩き回り、場所を変えてやったが結果は同じだった。きょうはあきらめて帰ることにした。途中山道の脇にマンゴーの木があった。しかし実がなっている位置が高くて直接は取れない。そういうときは道に落ちている石や木の枝などを投げつけて、落とす。二人はやはりうまくて何個も落とすが、俺はなかなかできない。落ちたのをゆずってもらう。その場で食べ、さらに全員に予備まで行き渡ったところで、また帰途についた。
狭い水溜りのある山道の曲がり角で牛を連れた男とすれ違った。彼が木の実の成った枝を手にしていて、パパがそれについて話しかけると、男は全部パパにゆずった。その果物はぶどうのような形をしていて、とてもおいしかった。少しずつ食べながら歩いた。疲れのことを考えると疲れがどっときそうだったので何も考えず二人のあとを黙々とただ歩いた。子犬たちは元気に一番先頭を走っているらしく、最後尾のこちらからはまったく姿が見えない。道らしき道のない山の中に入り込んだ。まだ密林はしばらく続くのかと他人事のように考えながら進んでいると、しばらくして前にいたパパが俺の名を呼んだ。横の地面を指差している。見るとそこには見知った井戸があった。はっと思い顔を上げると目の前はすでに我が家だった。うちの裏庭の奥からやってきていたのだった。裏庭ではリスバニアやニーニョたちが走り回っていた。 |
No.2678 - 2006/09/12(Tue) 06:05:25
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