ボニータの職場を訪問してみた。これまでにも何度か来たことがあるが、この日やってきたのは、実は仲直りのためだった。もう何日もボニータとは会ってなかった。しかたがないので、様子を見にきたのだった。入り口付近を行ったりきたりしてみる。少し離れて窓のあたりを覗いてみたりする。出てこないので、前の道路の角に座っていると、入り口から誰か一人出てきた。こちらからはブロックの隙間からズボンだけが見えた。はっと思い立ち上がると、ボニータがこちらを見て笑っているのが見えた。事情によりすぐにはあえて近づかない。そのまま振り向き振り向きしつつ立っていると、ボニータがこちらにやってきた。少しづつ挨拶をかわす。なんでうちに来ないんだ、待ってたのに。そんなことを話した。
オフィスに入れてくれた。他の社員一人一人に紹介してくれるので、それぞれとベシートを交わす。別の部署にも入ってみる。警備の人にとめられたので、ちょっと彼にトイレ貸して、とボニータが機転をきかし、入った。トイレに入ってすぐ出てきて、とボニータが言う。入って、すぐ折り返し、いかにもさっぱりしたという感じで出てみた。二人だけで妙に受ける。そこでも会う人会う人に紹介され、ベシートを交わす。さっきの警備の男ふたりが歩いてきたので、若い方の男にボニータが声をかける。さっきトイレ使ったの見たでしょ?。
一人の男がいた。彼は俺が一人でサンティアゴに初めてきたときからの知り合いだ。いつもチップをくれとうるさい。あいつは何にもチップをくれないケチなやつだ、と言っていたとボニータから数日前聞いたばかりだった。やあ、という感じで手を出してきたが、無視して他の社員たちと握手する。おまえ何を言った?ちゃんと聞いたぞ、と言ってやり外に出るとき、笑っている彼の顔だけが見えた。
時間は11時すぎで、まだ昼休みでもないのに、食事に行こうとボニータがいう。こういうときはもう1時間も待てないらしい。同僚の女性社員を一人連れていった。彼女はペンを手にしていた。一応仕事中という証拠か。近くのレストランに行き、海鮮料理などを食べた。日本と中国ってサンティアゴとハバナみたいなもの?、と同僚が訊く。どちらも国だから違うわよ、と俺にしっかり教育されたボニータがまず応える。キューバとメキシコみたいなもんだよ、近くにあるけど別の国だと俺が補足しておく。どの辺にあるの?とさらに同僚が尋ねる。ランチョンマットを元に説明する。手元を指して、ここがキューバで、ここがヨーロッパなら、と俺が言うと、ボニータが、あっちのほう!と勢いよく道路のほうを指差す。最後は、amorって日本語でどう書くの?という依頼に応じて、ナプキンに、愛、と書いてあげた。大きなカニの食べガラが残った。ここで私たちと食べたという記念に持って行かない? こういうことを言うときのボニータはやさしい。
彼女たちは、早く戻らなきゃと少し心配そうに職場に戻った。俺はまた来た道を引き返し、ボニータが仕事が終わって来てくれるまで、散策に時間をつぶした。そのあと聞いた話では、案の定、職場の上司に、どこに行ってたんだ、探してたんだぞと注意されたそうだ。ボニータは近々俺とハバナに行くために休暇を数日取る予定だったのだが、それも、休暇の許可は無いと思え、と念を押されたということだった。でも、大丈夫、また頼んでみるから、とボニータが楽観視していた通り、出発の前日、街の通りで偶然見かけた上司に口頭で許可をもらい、無事一緒にハバナに向かうことができた。 |
No.2077 - 2006/01/19(Thu) 08:24:40
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