※3ベースなのに、2の幸村外伝後 ※三幸 ※二人だけじゃなくて、たくさんの人をハッピーエンドにしたいというのがコンセプト ※幸せな三幸というのが元々なはずが、こういう展開にしよ、ああしようこうしよう、こうなったらいいな、がいっぱい出すぎて、ちゃんと書けばそれなりの長編になりそう→よし、書きたいとこだけ書こう→色々断片です。
まだ山と残る戦の処理になんとか一区切りをつけた三成は、怪我の療養でほぼ寝たきりになっている幸村の部屋を訪ねた。本当ならば毎日顔を出したいところなのだが、仕事が後から後から沸いてくるせいで、そうも言ってはいられなかった。それでも、仕事を運んでくる面々が代わる代わるに幸村の様子を伝えてくれるおかげで、彼の様子を知ることが出来た。今日は少し城内を歩いておられた、やら、鍛錬場で訓練している者たちを眺めていた、やら。まだ体調は回復してはおらず、城下に散歩に行くことも出来ないようだったが、時間はたっぷりあった。焦らずゆっくりと養生してほしい、というのが三成の心からの願いだ。
戦の処理が遅延している理由は、半分は三成にあった。徳川家康に味方した諸将の処分が決まっていないのだ。それ以前に、家康自体の処遇もまだ決定しておらず、彼は今、大坂城の片隅に隔離されている。食事はきちんと用意しているし、着るものにも不足がないように手配している。流石に自由はないが、それ以外のものは十分に与えているのが現状で、待遇は決して悪くはない。東軍についた諸将たちは、自領に閉じこもって通達を待っている者や、それらを引き払って潔く大坂城で謹慎している者、加藤清正や福島正則といった豊臣恩顧の将は、ねねが大坂城を退去した後の住まいとしている京都新城に身を寄せている。 天下を二分する程の大戦だった。当然、東軍に属した者を処罰しなければならないのだが、その量があまりに膨大すぎて、全員を減俸または取り潰すには無理があった。結論が先延ばしになっていることに三成自身気付いてはいるが、目先の仕事に追われて手付かずになっていた。清正たちの所領を取り上げる、ということに躊躇いがない、と言いきれないところもあった。身内贔屓は三成の嫌うところではあったが、いざそれを決意するにはまだまだ時間が必要だったのだ。
さて、幸村である。そういった細々とした面倒なことなど気にせずに顔を合わせられる相手でもあった。軽い傷ならば包帯は取れただろうか。幸村のことだ、まだ早いというのに、もう大丈夫だといって包帯を取って歩き回っているかもしれない。ただ、長い布団生活のせいで体力は落ちているだろうし、手足のことを思えば、長時間の移動は無理だ。きっと部屋に居るだろうし、いないとしても移動距離はせいぜい城内ぐらいだろう。探すにしてもそう手間ではない。こちらとしては、出来れば室内でゆっくりしていて欲しいところだが、あの幸村にそれを求めるのも酷だろう。
とりあえずは、幸村と久々に会える、と意気揚々に幸村の部屋の前で声をかけた。返事はあったが、幸村の声ではなかった。幸村の影にいつの間にやら控えている、あの女忍びのものだった。不審に思い、遠慮なく襖を開ける。くのいちは少々不貞腐れた様子で、部屋の中央に胡坐をかいていた。三成と目が合う。が、すぐにぷいとそらされてしまった。
「幸村はどうした?散歩か?」 「散歩だったらよかったんですけどねぇ。あたしも止めたんスよぉ。でも、もう大丈夫だから、の一点張りで。着いてく気満々だったんですけどねぇ、誰かが訪ねてきたら困るから留守番してろ、って。ひどい話ですよねぇ」 「…出掛けたのか」
自然、声が冷える。幸村本人は怪我の状態にも能天気に笑っているが、長時間の移動は困難な身体なのだ。城内であれば事情を知っている者も多く、保護を買って出る者もいるだろうが、城下となればそうもいかない。幸村の顔は大坂の町では知られているし、戦後とあって大坂ですらならず者が入り込んでいる。事件に巻き込まれないとも限らないのだ。
「どこに行った。すぐに連れ戻さねば!」 「京の御所まで。正確には京都新城ですけど」 「なんだと!何故止めなかった!!」 「だから、止めたんですって。でも行くって言って聞かないし。一応護衛は連れてるんで、問題ないっちゃあないんですけどね。手出しするな、自分で馬に乗って行く、って、まあ頑固で」 「もっと全力で止めろ!」 「だーかーらー、無理なんですって。あたしじゃ幸村様止められまーせーんー」
いつの間にやら、肩で息をしている。城内を歩き回ることすら容易に出来ぬ人間が、外の、しかも二十里以上離れている場所に出掛けて行ったという。これで慌てるなと言う方が無理な話だ。これが怪我をする前の幸村であったのなら、心配はもちろんするが、護衛がいるならば、と無理矢理にも納得することが出来たが、今の彼は決して健康体ではないのだ。どこぞの山中でへたり込んでやしないだろうか、妙な奴らに絡まれていないか、治りかけていた怪我は悪化していないだろうか、などなど、心配事は次から次へと沸いてくる始末だ。 だが、この忍びを問い詰めていても埒が明かぬ、と諦めた三成は、いつ頃経ったのかを訊ねる。今から追いかければ、もしかしたら間に合うかもしれない。馬に乗るにも体力がいるのだ。腕や足が思うように使えない幸村が途中で休憩を挟んでいる可能性も高い。駿馬を選んで走らせれば、あるいは。
「日の出と一緒に出掛けたから、うーん、三刻は前ぐらい?三成さんがどんだけ急いで馬走らせても、追いつかないと思うにゃー」
すぐにでも部屋を飛び出そうとしていた三成に向かって、くのいちは無情にも言い捨てた。
「三成さんが面白いぐらいにうろたえるから遊んでみたけど、そーんな心配しなくって大丈夫だって。いざとなれば、抱えてでも幸村様連れて帰ってきてくれる頼もしい忍び付きだし。二、三日したら戻ってきますって」
ほーんと、幸村様のこととなると、冷静な治部少輔様が崩れちゃうんだから。 と、言葉の割りにからかいの少ない調子でくのいちが呟いた。けれども三成は彼女のように気楽になれるはずもなく、幸村が戻るまでの二日間を、一日千秋の思いで過ごしたのだった。知らせが届けば、幸村に何かあったのでは!と過剰に反応し、誰かが書簡を持ってやって来れば、何か幸村に関する情報を持ってきてくれたのでは、と期待をする二日間だった。気が休まる時などあるはずもなく、それを近くで眺めていた左近などは、戦時の多忙の最盛期以上のやつれっぷりだったと零した程だった。
ねねの住まいとしている、京都新城と大坂城とは、約二十里の距離である。馬を飛ばせば一日で往復できぬ距離ではないし、前の幸村であったのなら、軽く行き来してしまうだろう。けれども、今の幸村の身体を思えば、一日をかけて京都新城へと辿り着き、また一日をかけて戻ってくる、というのが妥当だろう。一晩をねねの元で過ごす、というのも、実は三成の懸念の一つなのだ。今、ねねの元では、先の戦で敗者となった者たちが多く世話になっている。西軍勝利の功労者である幸村に危害を加えるような分別のない者はいないと信じたいが、そこは何とも言えないのが現実だ。いじめられてやいないだろうか、いわれのない非難を受けてやしないだろうか。そんなことばかりをぐるぐると考えてしまう。もちろんねねを信頼しているし、清正や正則はそういった人間から庇ってくれるとは思うが、人の負の感情というのは、何をやらかすか分からぬものなのだ。ああくそ、どうして幸村は出掛けて行ってしまったのか。その行く先が、どうしておねね様のところなのか。帰って来たら説教だ、兼続にも声をかけておこう、と、一刻も早く無事に戻ってくれるよう祈るしか出来ないのだった。
悶々としながら眠りについたせいで、あまり寝た気はしなかった。ひどい顔だという自覚はあったが、案の定左近に指摘され、無言でにらみつけておいた。鏡を見る勇気はなかった。どうせ顔色は最悪で、連日蓄えた隈がいっそう濃くなっているのだろう。ああそんなことより幸村だ。まだ戻ってこないだろうか。
執務中も始終そんな調子であった。左近があからさまにため息をついても、文句を飛ばす余裕はなかった。ため息をつく暇があるのなら、お前はひとっ走りして幸村を迎えに行けばよいのだ。 そう叫びそうになったところで、ああ俺がやればいいのか、と思い立った。立ち上がったところで多少の眩暈はあったが、ただの立ちくらみだろう。少しばかりじっとしていれば治まる程度だ。左近は唐突にゆらりと動き出した三成に驚いたようだったが、三成は構わずに部屋を後にする。歩き出してしまえば、案外に元気なことに気付いた。これならば、馬を全力で駆けさせるぐらい他愛無い。背後では、三成の様子を不審に思った左近が後に続く。 城内をずんずんと歩き馬小屋まで辿り着くと、流石に左近も三成の行動の意図を覚ったようだった。がしりと腕を掴んで、 「なに考えてんですか。待ってりゃ帰ってくるんですよ」 と、正論を言う。正論かもしれないが、三成にとってはあまりにも非情に聞こえた言葉だった。 「お前は心配ではないのか!一人山中で泣いていたらどうするのだ!」 「幸村に、一人山の中で遭難して泣くような可愛げはないと思いますが、」 「左近!お前に人の心はないのか!」 「いえ、ですから、」
わいわいと三成一人で騒ぎ出すが、左近に腕を取り押さえられている以上、そこから動くことが出来ない。左近は三成の怒号に辟易し、三成は三成で聞き分けのない家臣に苛々している。とにかく落ち着いてくださいよ、殿。うるさい俺は冷静だ、だから離せ、離さんか左近、とまあ、その繰り返しだ。 そんな応酬が何回続いただろうか。くすくすと女の笑い声が降って来たことで、二人は言い争いをやめた。馬小屋の屋根から二人を見下ろしているのは、くのいちだった。
「朝から元気ですねぃ、お二人さん。こういう時は忍びにお任せ〜。ちゃんと要所要所に配備させてますから、幸村様がいつ頃到着するか、そのうちに報告が来るはずですぜい」 「本当か!」 「本当本当、大マジです〜。つぅわけで、お二人さんは門の前で待っててくださいね。下手に動かれても邪魔なんで。そいうわけで、どろん」
とぅっ、とくのいちが起き上がったと思ったら、その姿はどこにもなかった。忍びは妖怪変化の類じゃないんで、ちゃーんと種も仕掛けもあるんですよ、とくのいちは言ってはいたが、実際目の前から急に姿を消されては、どこに種や仕掛けがあるのか、皆目見当のつかない二人だった。
「とりあえず、馬で追いかけるのは諦めてください」 「うるさい、分かったから離せ。俺は門の前で待つぞ」 「くのいちが知らせてくれると言ってたじゃないですか。その刻限に向かえばよろしいでしょうに」 「もしかしたら、予測を間違えるかもしれんからな」 はいはい。もう勝手にしてくださいよ。と呆れ顔の左近を他所に、三成は意気揚々と門へと足を向けるのだった。まだまだ知らせは届きそうにないな、と左近が思うのを尻目に、三成は今に幸村が姿を現すだろうと心を弾ませるのだった。
真田忍びの報告は常に正確だった。今回もまた同様で、くのいちから告げられる、あと四半刻で戻る、という報は全く狂いもなく、その通りになった。幸村の姿が遠目に見えれば自然三成の機嫌も上昇したが、馬に二人乗りしている状態に気付けば、自然、三成周辺の空気の温度は下降していった。長時間の乗馬で足も腕も力が入らないだろうことは三成にも簡単に想像できるのだが、身体を預かるように腹に回されている太い腕だとか、それに安心しきってもたれかかっている幸村だとか、三成から冷静さを奪った。離れていては支えきれないことは分かっているのだが、ぴたりと密着している状態が、嫉ましいやら羨ましいやら。
幸村を出迎える面々は、時間と共に増えて行った。三成たち(主に三成が、だが)が騒いでいたせいもあって、城内にあっと言う間に広まったのだ。あとは野次馬が集まる如く、暇を持て余した者たちがわらわらとやってきたのだ。幸村が到着する頃には人がずらりと並んでおり、壮観でもあり、思わず引き返したくなる程のごった返しぶりだった。
中央に居たせいか、不機嫌オーラを発していたからだろうか、幸村が一番に気付いたのは三成の存在だった。腕を組んで仁王立ちしている姿は異様であり、威圧感があり、左近などは逃げ出したい限りだが、幸村は三成を見つけるやにこりと微笑む程だった。横にいた左近が、思わず、あ、と声に出してしまうぐらい急速に、三成の機嫌は回復した。ただ本人は、幸村を説教せねばならない!という使命に燃えていたせいで、眉間に寄せた皺の数はそのままだ。だが、親しい者であれば、三成の空気の険が和らいだことなど、簡単に見て取ることが出来た。生憎と、幸村もこちら側なのだ。
「三成どのー。どうなさったのですか、この人だかりは」 「皆、お前の帰りを待っていたのだよ。お前はまったく、人に心配をかけさせてばかりだ」 「無断で抜け出したことは謝ります。ご迷惑をおかけしました」 「いいか幸村。お前はまだ病み上がりだ。もっと自分を大事にしてくれ」
馬を寄せる幸村たちに、三成は見上げながら説教をこぼす。幸村はふふふ、と笑うばかりで、うんとは頷かなかった。本当に柔らかく笑うようになったなあ、良い傾向だなあ、と幸村の笑顔に流されそうになって、ああそれでは駄目だ!と首を振って、つとめて厳しい顔を作る。彼をここで甘やかしてはいけないのだ。
「幸村、お前は自分の身体のことをちゃんと分かっているのか?供をつけるなり、もっと体力が回復してからなりにしてくれ」 「それは今回で痛い程身に染みましたよ。そう大した距離ではないと思ったのですが、途中、何度も休憩を挟まねばなりませんでしたし。終いには、山菜摘みにいらしていた清正どのに保護していただきました。帰りはこの通り、世話になりっぱなしです」
幸村が後ろを振り返り、ありがとうございます、と軽く頭を垂れるものだから、三成も後ろの男に視線を向けなければならなかった。清正だ。出来ればここではいない者として扱いたかったのだが、そうもいかなかった。
幸村は三成の元までやってきて、案外にしっかりとした様子で馬から降りた。多少ふらついたものの、三成が手を出して支えるよりも先に、自分の足だけで立っている。清正もまた馬から飛び降りる。幸村を支えながらの馬旅だったろうに、疲労の様子は全くなかった。この男の体力馬鹿なところは三成にはない部分であり、少しばかり羨ましいところでもあるのだ。
「それで、何の為におねね様のところへ行ったのだ?書状では駄目だったのか?代わりの者では?」 「おねね様にはちょっとお願い事を。内容が内容ですので、直接お伺いしたかったのです」 「願い事、とは?」 「それは今は秘密です。でも、すぐに分かると思いますよ」
秘密、と言われて、思わず清正を見やった。この男は知っているのだろうか。むかむかとした気持ちがそのまま顔に表れてしまったようで、無意識に睨み付けていた。いや、この男と顔を合わせれば睨み合いをするのは、最早癖のようなものか。
「幸村は無事送り届けたし、俺は戻るからな」
三成の視線に怯みもしないくせに、清正はさっさと踵を返そうとする。それを引き止めたのは三成だ。
「少し休んでいけばいいだろう。来て早々帰らねばならぬ程、貴様は忙しいわけがない。どうせ山菜摘みも暇を持て余してのことだろうが」 「今となっちゃあ、天下の石田三成"サマ"に比べりゃあ、俺は暇で暇でしょうがないんだろうがな。俺がここに居ること自体が厄介事だってぐらい、俺にだって分かる。さっさと退散するに決まってるだろうが」 「清正どの!」 「お前の言い分は分かる。少し、考えさせてくれ」
三成を置いてけぼりにして繋がった二人の会話に、三成の眉間の皺が少しばかり深くなる。清正は敏感にも気付いたようだったが、片眉がぴくりと動いただけで、それ以外の反応はなかった。
じゃあな、と素っ気無く言葉を残し、清正は本当に今来た道を帰って行った。成り行きではあるものの、その後ろ姿を見送る羽目になってしまった。
「幸村、それで、怪我などはないな?あちらでは何もなかったな?」 「はい、おねね様には随分とよくしていただきましたし、清正どのと正則どのには世話ばかりかけてしまいました」 「本当に、大事ないのだな?」
嘘をついても見破ってやるぞ、と幸村の顔を覗き込めば、幸村はふにゃりと笑った。まさに、ふにゃり、と表現するしかない、だらしないというのか、緩みきったというのか。気を抜いた、安心しきった笑顔だった。説教の言葉もどこか飛んでしまった。きっと幸せな笑顔、というのは、こういうことを指すのだろうな、と三成の心に温かいものが生まれた。 けれども、三成がその余韻に浸る間もなく、幸村の足ががくりと崩れた。咄嗟に身体に腕を伸ばして抱きかかえるようにして支えれば、触れた肌からは高すぎる温度が伝わった。
「お、おい!熱が出ているのか!」 「さっきまで大丈夫だったんですけど、」
そういう幸村の声は、どこかふわふわしている。高すぎる熱に意識が朦朧としているのかもしれない。これはまずい、と幸村が倒れないようにしっかりと身体を抱き締める。幸村の足は既に力が入らないようで、三成に体重のほとんどを預けている。
「三成どのの顔を見たら、ほっとしたようで、ふふ、力が抜けてしまいました」
そう耳元で囁かれては三成も正常に彼の言葉に反応できず、幸村のふわふわとした様子がうつらないように、腕に力をこめなければならなかった。
*** 長いよ! 短いから、と三成サイドを選んだのに、すんげぇ長い。蛇足多い。いいんだ、このページは、その時その時の書きたい!と思った場面を、自由に書く!だから。 ところどころ支離滅裂なのは、推敲しないからです。 勢いも、大事!
あ、まだこの二人、くっ付いてません。というか、告白してません。でも各自、自覚済みです。清正の辺りもっと掘り下げたかったけど、既に長くなってることにひぃひぃ言ってたので端折り気味。
この後、幸村のおねね様へのお願い事が何なのか分かる話も書きたいし、三幸!って全力で言える話も書きたいし、お正月だしおねね様主催の仮装大会しようぜ!な話も書きたいし。ネタは尽きないわけでして。
あ、BGMはさよなら/ポニーテールです。あの素朴でやわらかい雰囲気がこの三幸にぴったりだなあ、と思うのです。 |
莉緒 No.1919 2013/01/31(Thu) 23:08:58
|