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Date: 2012.04.06.Fri.
「すまぬな」
軍議に召集されていたあの方が帰還して、人の顔を見るなり妙な顔をして謝ったので何か可笑しいとは思ったのだ。こういう場合は碌な事が無い。
しつこく問い詰める七郎次の剣幕に根負けしたか、渋々と勘兵衛は口を開いた。 「お偉方がな。余りにも妻を取れと煩いので、うんざりして、つい女房ならもう居りますと応えたのだ」 「…其れで?」 「其の女房はよく気のつく出来た女房で、言葉にせずとも儂の意を汲むと云ったな。あれさえ居れば他に妻は要らぬとも」 「……で?」 わなわなと震える体が其の怒りの深さを伝える。 「背中を任せられる人間は他にも居れど、儂の女房は唯一人だと」 「………っ、それで其の女房の名前を尋ねられて、馬鹿正直に"七郎次"だとお答えになったわけですかっ!!」 「怒ったか」 「怒らねえとでも思ったか、この昼行灯のすっとこどっこい!!!」 上官への口の利き方も忘れて、七郎次は己の上司へ向かってそう怒鳴った。
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