小説を語ろうや

よしもとばなな「ハゴロモ」(新潮文庫、2003年1月発表) / Jiraux 引用

 18歳から8年続いた東京での愛人生活が終わり、
 冬寒い、川のあるふるさとの町に帰った、女性の話だね。

 家には喫茶店をやっているおばあちゃんがいる。
 みつる君っていう、以前にどっかで逢ったことがあるような気がする若者に、横断歩道で出会う。

 みつる君はお母さんと住んでいる。お母さんは、バス事故で亡くなった夫(みつる君の父)のことを思っていたりして…。

 こういうふるさとの人々との日々の中で、
 みつる君が、この女性が子供の頃入院してた時に、小さな手袋を贈ってくれた人だったことが分かったりするんだ。

 その時女性は、生死の境をさまよっていた。
 みつる君も、スケートかなんかしてて、頭をけがして、意識を失った時に夢の中で、手袋が必要な女の子がいることを知り、
 みつる君のおばあさんに相談したら、
 病院の中の患者にそういう人がいるかどうか探しなさい、といわれ、
 看護婦に尋ねて、この子供の頃の女性に行き着いたんだ。

 幻視や、
 心の中で起きる、あまり合理的ではないことが描かれているが、違和感はない。

 女性が、傷心から回復して行く物語だからね、

 こういう物語、あったっていいじゃないか…。
 いや、あった方がいい、ってえ気分にさせてくれるね。
 好きな作品だね。

No.410 2007/12/03(Mon) 11:04:40


宮本輝「錦繍(きんしゅう)」(新潮文庫) / Jiraux 引用

 10年前に離婚した2人が、山形・蔵王の、
ゴンドラ・リフトの中で出会う。

 女は知恵遅れの8歳の息子を伴い、男は襟の汚れたシャツを着て、落ちぶれた様子だ。会釈もしないまま分かれるが、
 その後で、女が男に手紙を出す。

 物語はその手紙から始まる。
 10ヶ月間に行きかった14通の2人の手紙で織り成された、ロマネスク。
 書簡体小説だね。胸を撃つ。

 女は、ちゃんとした建設会社の娘で、男はこの会社の課長をしてた。社長の女の父は、この男を後継ぎの社長にするつもりでいた。

 分かれた原因は、男の浮気。
 京都・嵐山の旅館で、クラブの女に首を刺され重傷を負い、女は頚動脈を切って自殺する。このクラブの女は、男が中学2年生の時の同級生で、好きだったんだ。男の両親が亡くなり、舞鶴の親戚に預けられていた時のことだった。

 14通の書簡では、
 この事件や、それまでのいきさつ、
その後の男と女の生の軌跡が、分かりやすい文章で描かれる。
 そして、2人の現在が語られ、未来の生活が指し示される。

 すなわち、
 女は、再婚した大学助教授と分かれ、知恵遅れの息子とともに生きて社会生活が送れる状態にまで育てようと思うし、

 男は、ともに住む女と、美容院の広告をつくる新たな仕事に取り組もうとしている。

 胸を撃たれたのは、

 互いの手紙が重なってゆくにつれて、
 相手に対する理解が次第に深まっていくところかな。
 10年前にともに暮らしていた時より、ずっと深く。

 やがて、未来へ向けて、励ましあうんだね。

 「生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれない」
 モーツアルトの曲だけしかかけない喫茶店「モーツアルト」の主人に、
 女が、云う。

 いろいろな思いを抱かせてくれるphraseだね。

 宮本も、これについて考えを書いているけれど、
 ここに報告すると、意味を狭めてしまう気がするから、
 よすことにする。

 題名の「錦繍(きんしゅう)」だが、

 最後の場面で、女は父と一緒に母の墓参りをした後、
 昼食のために料亭に入り、
 目も覚めるような庭の紅(黄)葉、すなわち「錦繍」を見る。
 また、14通の手紙が織り成される構成そのものが、
 「錦繍」であるともいえるね。

No.409 2007/11/24(Sat) 10:29:18


メリメ「カルメン」(杉捷夫訳、岩波文庫) / Jiraux 引用

 放浪の民、ボヘミヤンの若い女、カルメンを好きになり、カルメンと共に犯罪を重ねて捕まった山賊、ドン・ホセが、
 絞首台に送られる前に、知人のフランス人地理学者に語った自分の物語、という形式をとっているね。
 ドン・ホセは、スペイン・アンダルシアのセヴィーリャの兵士だったが、カルメンと知り合って、逸脱し山賊になっちゃうんだな。

 初めて逢ったとき、カルメンは、

 「アカシアの花一輪をくわえ、若い牝馬のように、腰を振りながら歩いてくる。皆が下卑た世辞を浴びせる。握り拳を腰に当ててボヘミヤ女の名に恥じぬ図々しさ」
 を見せている。

 ドン・ホセは、
 煙草工場で、共に働く女の顔にけがをさせて、捕まったカルメンを逃がし、
 門衛として警備中の城門から、カルメンがいる密輸団を城門の中に入れるなどの逸脱を繰り返し、
 ついに、山賊になっちゃう。

 ドン・ホセは、カルメンの性的魅力に囚われて、転落し、山賊になって悪事を重ね、嫉妬からカルメンを殺した挙げ句に、ついに絞首台へ。

 テーマは、カルメンの吸引力に囚われ、流れ落ちるようにして死刑囚へと転落していくドン・ホセの、無防備な愛の中味、内面の動きということになるんだろうが、
 そのあたりへの目配りがない。

 エンターテインメント、物語、なんだね。
 162年前に書かれたんだもの、仕方ないか。

 愛は、人を盲目にしてしまう。気をつけなよ。

 って、メッセージが読み取れるが、
 ま、それだけでもいいか。

 メリメ(1803〜1870)が1845年に発表し、「代表作」とされているが、本人は、その評価に不満だったらしい。
 私も、完成度は高くない、と思った。

No.408 2007/11/18(Sun) 09:49:01


ロープシン「蒼ざめた馬」(川崎夾訳、岩波現代文庫、1000円+税) / Jiraux 引用

 20世紀初め、革命前のロシアのテロリストたちの苛烈な日々を描いた小説だね。

 軍隊、秘密警察という暴力装置によって、有無を言わせずに人々を抑えつけ、
 収奪し、栄耀栄華の日々を繰り返す、腐敗した皇帝や貴族など支配層への憤怒から、
 テロリストになるんだが、

 やがて、テロの実行が生活の目的になってしまう。
 「革命」という輝かしさに照らされたような生活じゃないんだ。

 日記体で書かれていて、簡明だ。

 作者のロープシンは、本名サヴィンコフ。1879〜1925。
 社会革命党(エスエル)のテロリストだった。体験をふまえて書いたんだね。

 サヴィンコフの最期は、1925年5月7日、モスクワの秘密警察ゲ・ペ・ウの拘置所の5階から投身自殺したとされているが、
 ソルジェニーツィンは著書「収容所群島」の中で、
「サヴィンコフは、階段の踊り場から突き落とされた」と主張している、という(訳者のあとがき)。

 著書には、ほかに、「黒馬を見たり」「テロリスト群像」などがあるね。

No.407 2007/09/10(Mon) 06:14:23


同人誌「河」140号「花ごよみ」(池田武嗣) / Jiraux 引用

 子供の頃、川でおぼれかかったところを父に救われた。その父は、救った後、代わりになったようにして心臓麻痺で死んだ。35歳だった。

 常彦は、それを気に病んで、父に済まない、40歳過ぎまで生きてはいけない、と思っている。

 その常彦は、仙台に出張した夜、ウイスキーを飲んで、ホテルの11階から落ちて死ぬ………、
 ってえ話だね。

 人間は、こんなに簡単には死なないでしょう、
 というのが、わたしの感想です。

 視点人物の妻、波多瑠璃子は、
 夫がなぜ「自殺」したのか分からない。

 しかし妻は、自殺だったと思っている。
 常彦が、「40歳過ぎまで生きちゃいけない…」と生前、言っていたし、
 仙台へ出張する前に、身辺整理をきれいにしていったからね。

 妻が、夫の「自殺」の理由がわからなくっても良いんだ。小説の中では…。

 しかし、読者に対しては、
 行間を読むようにして分かるような書き方でもいいから、
 納得してもらえるようにしなくっちゃいけないんじゃないか?

 最後の場面で、妻が、近所の親切なおじいさんに対して切れる場面は、いけない。妻の品が落ちる。
 なだらかに終えるようにした方がよかったね。

 「花ごよみ」という題名は、良くないと思った。
 よく分からんよ。もっと考えるべきだったね。

 筆者が、
 死んで行こうとする人を書きたかったって気持ちをもっていたことは、分かる。
 文章は、atmosphereがあって、落ち着いた感じだ。いいね。

No.406 2007/08/28(Tue) 00:37:28


辻邦夫「安土往還記」(新潮文庫、¥438+税) / Jiraux 引用

 16世紀後半に生きた日本の改革者、織田信長の孤絶を、
 ジェノヴァ生まれで日本に渡来したイタリア人船員が描く、
 という設定なんだが、

 信長という固有名は、まったく使われない。
 「大殿(シニョーレ)」と呼ばれている。

 この船員には、過去があってね。
 「愛の激情」から、妻とその情夫を刺殺した過去がある。

 そういう過去をもつ船員が、
 信長の、一向宗の「伊勢長島一揆」や、謀反人の荒木一族に対して示した、残虐さや、信長の孤立の相などを描写し、感想を述べる。

 荒木の謀反を知った時の信長については、

 「私には、ただ彼の暗い顔が見えるだけだった。
 その顔はいまもどこか虚空の一点を見つめているような気がした。その顔は決して憎悪も激怒もあらわしていなかった。憐憫さえあらわしてはいなかった。それは強いていえば悲しみの表情に近かった。その悲しみを浮かべた蒼白な顔は、ただ暗いだけではなく、ひどく悲しげに見えた。私はふと彼が荒木殿を愛していたのではないかと思った」(148頁)

 残忍とまで形容された信長の性格の根拠について、
 船員は、

 「それは大殿が自分の極限にむかって、たえず自分を駆り立てている、その緊張した生き方から、必然的にうまれているように見えたのである」(184頁)
 と書いている。

 「ただ非情になることによって、人間になにごとかをもたらすという困難な道をえらんだ」(103頁)
 信長に、船員は共感を抱いている。
 それは、作者辻邦生(1925〜1999)の、
 熱い支持でもある。

 「背教者ユリアヌス」「夏の砦」「西行花伝」など、
 辻の作品はいろいろ読んだが、
 わたしは、これが一番いいな。

 1958年、Paris滞在中に考えつき、1967年春に構想がまとまり、1968年1、2月(作者42歳)に「展望」に載った。この年、この作品は文部省芸術選奨新人賞を得たそうだ。

No.405 2007/08/24(Fri) 19:28:43


高見順「いやな感じ」(文学界1960年1月号〜1963年5月号) / Jiraux 引用

 面白い。

 時代は昭和初期で、
 国内で無意味な殺人を繰り返し、
 上海に渡ったアナーキストのおれ、四郎が、そこでも無意味な殺人を繰り返し、
 最後は、中国人の捕虜2人の斬首の場面に出会い、
 曹長に頼み込んで2人目をやらせてもらうことになるんだが、
 うまく行かず、捕虜たちが掘った穴の中にころげ落ちて混乱する、ってえ話だね。

 コミュニストで1933年(昭和8)2月に、治安維持法違反の疑いで逮捕され、
 長期拘留の後に、「転向」した、
 高見順(1907年1月〜1960年8月=53歳で死去)が、
 アナーキストをこのように書いたことに、
 ちょっと引っかかるんだが、
 アナーキストのやけっぱちな内面が描けているんじゃないか。

 コミュニストは、アナーキストを軽蔑してるんだ。
 「綱領がない」、つまり、展望がない、計画性がない、行動主義的過ぎる、な〜んてね。

 この作品でも、
 主人公四郎が、やくざ者や、
 軍の手先になって、中国でアヘン売買なんかで荒稼ぎする人物などを、殺した挙げ句に、
 軍人に代わって中国人捕虜を斬首しようとする、

 行動の軌跡に、
 元コミュニスト、高見順の、アナーキストへの軽視を見つけようとすれば見つけられるが、
 面白いから、ま、いいか。

 昭和6年の3月事件、10月事件、昭和7年の血盟団事件、5.15事件、昭和11年の2.26事件などの時代背景が、目の前に見るように描かれていて、
 とてもいい作品だ、と思う。
 教科書や受験勉強では、とうてい理解できない、昭和初期の動きを、現前させている。

 国内の財閥支配、汚職で汚れた政界などによって、貧富の差が大きく開き、

 貧しくて、
 娘を遊郭に売らざるを得なくなったような農民たちに心を痛めた若手軍人たちの、
 義憤に駆られて、改革を目指した行動が、

 ずるがしこい上層部の軍人たちに利用されていく様子が、よく描かれている。

No.402 2007/07/23(Mon) 12:55:31

 
Re: 高見順「いやな感じ」(文学界1960年1月号〜1963年5月号) / 良一 引用

 高見順は、卑怯だった。

 それは、はっきり云って置かなきゃいけないと思います。
 コミュニストだった自分というものがあったのだけど、
 そこに拠点を置かずに、アナキストの話を書いた。
 逃げてる。

 アナキストから抗議がなかったのかな?
 それほど小さくないか。 
 アナキストは。

 ちょっと汚い。
 高見順は。

 ここに「いやな感じ」が出たから、
 急に読んだ。
 長かったな〜。
 ふうっ。

No.403 2007/07/24(Tue) 20:43:10


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