小説を語ろうや

阿川弘之「亡き母や」(講談社、¥2000+税) / Jiraux 引用

 何かでカッとなったら、前後の見境がつかなくなって、声を荒らげ指を震わせ、八つ当たりに当たり散らして、相手の心にも自分の心にも後々までしみに似たしこりを残す(89頁)。

 いらち、すなわち、いら=とげ、の生え方が普通でない。
 そういう己の性質の原因は、遺伝のせいとあたりをつけて、父母や祖先、兄弟親戚のことを調べる。
 そういう物語。

 題名の「亡き母や」は、
 亡き母や海見る度に見る度に
 って、一茶の句から取ったんだね。

 良い文章を味わえた。

 「おれのこの怒りっぽい性格は遺伝のせいだ」と、
 いったん思いこんじゃったら、父母や祖父母、兄弟たちが過去に見せた性格の、己に似た部分が記憶の中に浮かび上がって来て、記憶が再編されるんだね。
 記憶はそういう動きをすることがあって、それに騙されることはよくあるんだよな。

 本当に遺伝のせいかどうか、証明する手がかりはないんだよ。
 だから、阿川さんの書いたことは、間違ってないと思った。

 ある世界に漬かりすぎちゃって、それから離れたくなって、肌合いの違う本を読もうと思った。新宿・紀伊国屋で探していて、見つけたのだった。

 志賀直哉の弟子らしく、端正な文章だね。登場人物が、どの人もいい。父の隠し子だった、異母兄の幸寿がとくにいいね。

 阿川は、流行作家になろうとは思わなかった、という。
 戦争で死んでいった同世代のことを、ひとつだけ書き残そうと思った。
 それが納得できるものなら、それだけでいい、と思った。
 「雲の墓標」がその作品なんだろうか。

 1920年12月生まれだから、今年87歳になるんだね。
 

No.381 2007/05/18(Fri) 21:53:56


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