私は、日本に行ったことはありません。私が、自分の人格形成期に、日本から受けた文化的経験をここで思い出しても意味はないでしょう。なぜ無意味かと言えば、20世紀の人間には、誰でも日本的なところがあるからです。私は、日本をイメージすることはできません。むしろ、私に恐怖感を与えているのが日本です。アメリカとヨーロッパにあまりに似ているのが日本です。私が魅せられているのが日本です。もっとも謙虚な人々の生活、グローバリゼーションに押しつぶされない奥深い文化、強い革命的意思をもって生きているのではないかと思わせるほどのアンチモダン的な相違が見られるのが日本です。 私の名前は、トーニ・ネーグリ(Toni Negri)です。私は、時代の流れの中で中立ではない立場で生きてきた哲学者です。私は、若い時代には、ドイツとフランスの文化をベースに育ち、熟年の時代には、極めて注意深い目でマルクス主義を見つめてきました。そして老いた今、いくらか過去を振り返りながら世界の混乱を見つめています。帝国体制が私達に強要している思想と文化、生産と表現の均一化に対抗する能力をもつ勢力が世界レベルで存在するかどうか知りたいと思っています。政治哲学レベルで理解に努めようとする私の努力は、この世界の中、その実体の中、その力関係の中で行動する意識、判断の中で何が起きているかを、直接的な政治レベルで理解したいという欲求を伴っています。 私は、マキアヴェッリ、スピノザ、マルクスを勉強し、資本主義の発展に対抗するアンチモダンとは何かを模索してきました。私は、帝国の秩序に対抗しうる勢力が存在するかどうかを把握するために、帝国の成立の研究に取り組みました。現在、私は、一般大衆を構成する男女がどのような性格をもっているかを確認する作業に取り組んでいます。これらの問題について皆様とディスカッションできれば幸いです。 パリからスタートさせる皆様との対話では、以前お話しした私が関心をもつテーマを集中的に取り上げることができればと思っています。私は、日本の皆様が現在の世界の現実、平和、戦争、貧困、愛についてどのように考えておられるかに特に興味を持っております。これらは、私達すべてにとって、極めて重要なテーマです。現実を理解し、私達が生活していく上で助けとなるからです。 ベネチア、2005.05.01 ,
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No.1084 - 2007/12/04(Tue) 19:05:02
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