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2012年05月20日 経済政策学会2012年度大会での丹羽春喜博士の研究報告
2012年5月26〜27日開催された日本経済政策学会の平成24年度全国大会において、私(丹羽)が、特別論題:「大規模災害に関する経済政策」セッションにおいて、研究報告を行なうことになった。この丹羽報告の報告テーマ、および、其の要旨を、以下に掲載しておく。
巨大地震活動期に備えるマクロ政策体系の構築
要旨
諸種の地震学的な調査・分析と予測によれば、今後の数年ないし十数年の近未来において、日本列島は、その多くの広い地域にわたって、大災害をともなう巨大地震の頻発といった危機的状況に直面する公算が、きわめて高いようである。
すなわち、まさに現在時点においてこそ、わが国は全国的に防災のための諸工事や諸システムの構築を急がねばならないわけである。さらに、近未来における大震災の頻発にさいしても、復旧・復興を効率的に行ない、経済全体の壊滅・疲弊を防ぎ、むしろ逆に、大規模な防災・復旧・復興需要を契機として、日本経済の長期的な成長・興隆の実現を期すべきであろう。本報告では、そのためのマクロ政策体系の基本的概要を示すことにしたい。
そのような危機的状況にあっては厖大化せざるをえない財政支出の財源を、増税に求めることは, 現実的には不可 能であろう。国債・地方債の新規発行に依拠することも不適切である(現在時点で、すでに一般政府負債は、過大となりすぎている傾向にある)。
好都合なことに、わが国の現行法(昭和62年法律第42号)では、「政府貨幣」(日常的に用いられているコインのほか、記念貨幣、政府紙幣をも含む)についての「国(中央政府)の貨幣発行特権」(seigniorage権限)が無制限に認められており、しかも、其の発動は、政府の負債とはされない定めになっている。
この点は、「日銀券」の場合に、其の発行額が、全て、日銀の負債勘定に計上されねばならない定めとなっているのとは、根本的に異なっている。すなわち、この「政府貨幣」についての「国の発行特権」こそは、まさに、国(中央政府)が無限大に保有している無形金融資産(負債ではない)にほかならない。
実務的には、この無限大の「国(中央政府)の貨幣発行権」のうちの、たとえば500〜600兆円分といった限定された所定額分の「政府貨幣発行の権利」を、日銀法の第4条、第43条、および、第38条の規定に準拠して、政府が日銀に売却すればよいであろう。その代金決済も、ただ単に、日銀が政府の口座にそれだけの額を電子的に振り込みさえすれば、それで済む(つまり、日銀券で決済する必要などはない)。
すなわち、現実には、「政府貨幣」ないし「政府貨幣としての政府紙幣」を、新規かつ巨額に発行・流通させるようなことは、しなくてもよいのである。また、日銀券を多額に新規発行する必要も無く、政府は、きわめて潤沢な財政財源を、容易かつスマートに、しかも、負債などではない非常に良質の「第3の財政財源」として、確保しうることになるわけである。
なお、このさい、重要なことは、このようなやり方で「国の貨幣発行特権」を発動して潤沢な「第3の財政財源」を確保するということこそが、まさに、日銀法の第4条が規定する「政府の経済政策の基本方針」にほかならないのであると、政府(内閣)が、はっきりと意味づけ、そのことを明確に表明する必要があるということである。
この点が政府によって明確に示されることによってこそ、この日銀法第4条の規定によって、日銀にも、上記のような方式で政府に協力する義務が生じるということが、明らかになるのである。
巨大地震活動期に備えての防災事業を実施するにせよ、震災の復旧・復興、そして、それを契機としての経済全体の興隆をはかるマクロ経済政策を策定しようとする場合にせよ、わが国の経済にどれだけのマクロ的生産能力の余力が存在しているかを、客観的・実証的に見積もることは、必ず行なわれねばならないことであろう。
すなわち、マクロ的なデフレ・ギャップ、インフレ・ギャップの信頼度の高い計測が、ぜひとも必要なのである。
しかし、1980年代以降、現在まで、わが政府当局(旧経済企画庁、現内閣府)は、この両ギャップの経済理論的に正しい概念による正確な計測を、常に、怠り続けてきた。たとえば内閣府は、平成23年2月、わが国の経済における「GDPギャップ」(デフレ・ギャップ)を、僅かに3.8パーセントにすぎないと公表した。
すなわち、平成23年の第1四半期ごろの日本経済が、労働力と企業資本設備の総合で、完全雇用・完全操業に近い96.2パーセントという、1950〜60年代の高度成長期をも上回るほどの高就業率・高稼働率の、非常な好況状態にあったかのごとく推計されたわけである。
だとすれば、平成23年ないし24年の現在において、わが国の経済には、東日本大震災の復旧・復興のための生産余力がごく僅かしか存在していないということになってしまう。言うまでもなく、内閣府のこの推計値は、甚だしく非現実的である。報告者(丹羽)が、TFP検定技法によって厳密に吟味してみたところ、この内閣府推計の信頼度が極度に低いことが、判明した。
ここで、もう一つ、重要なことを指摘しておく。報告者(丹羽)が1970年度から2009年度までのデータで計測してみたところ、この狂瀾怒涛の40年間においても、最終需要ベースの「自生的有効需要支出額(*)の、たとえ構成比がどう変わろうとも、とにかく年々の?@?A?Bのトータル額を、中・長期的に、たとえば1.5倍あまりに増やせば、GDPも1.5倍、2倍あまりに増やせばGDPも2倍になり、まさに威風堂々たる高度成長の「所得倍増計画」も実現されうるという堅固無比な因果的関数関係の存在が、実証的に明らかになったのである。
(*その構成は、 ?@民間実物投資支出額、 ?A純輸出額、すなわち、財貨・サービスの輸出超過額、および、 ?B地方財政をも含む「一般政府」支出額、 の3項目である)
内外の金融の大混乱や世界大不況がいかに激烈であろうとも、そして、いかに惨烈な震災などが発生しようとも、この因果的関数法則は、常に揺ぎ無く貫徹するのである。実は、これは、ケインズ的マクロ均衡理論によって裏づけられている鉄則である。現在時点において、この鉄則を再確認し、復権させることも、まさに必須の緊急必要事であろう。
要するに、近未来に巨大地震活動期の危機的状況に直面し、それを乗り切らねばならないわが国においては、不可避的な課題とならざるをえない諸種の防災プロジェクトの実施、ならびに、大震災の復旧・復興事業などを、むしろ絶好の好機として前向きに捉えて、わが国経済のマクロ的興隆を期するべきである。
そして、そのためには、 〔?T〕「国(中央政府)の貨幣発行特権」の発動による「第3の財政財源」の確保、 〔?U〕デフレ・ギャップ、インフレ・ギャップの正しい概念による信頼度の高い計測、そして、 〔?V〕自生的有効需要支出の支配的役割に基づくマクロ均衡理論的鉄則の再認識と復権、 という「3点セット」型の構造を備えたマクロ政策体系を構築・整備することが、ぜひとも必要なわけである。
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No.4578 - 2012/07/05(Thu) 11:21:58
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