メディア陰謀論を共有する人たち 小田嶋 隆 震災以来、一部の読者は著しく不寛容になっている。で、書き手である私は、その不寛容さに反応して、いくぶん神経質になっていて、だから、こういうややこしい前置きを書いている次第なのだ。
発端はメディア不信にある。
震災直後に大量配信された情報は、たしかに混乱していた。かなりの部分で誤報や思い込みを含んでもいた。そうした状況からすれば、政府の発表や東電の会見に対して人々が不信の念を抱いたのは当然だし、その彼らの一部がついでに新聞やテレビの報道に対しても疑いの目を向けるようになったことは、むしろ健康な反応だったと言って良いことだ。
でも、それはそれとして、現在、特にネット上でささやかれているメディア不信の言説に、私がうんざりしていることもまた事実なのである。
マスメディア発の情報を鵜呑みにしないということころまでは良い。 複数の情報源をクロスチェックする態度が一般化しつつあることも、基本的には歓迎すべき傾向なのだと思っている。
でも、一部の人々は、疑うだけでは満足せず、一定の予断を持って情報を読み解きにかかる作業を習慣化している。と、この読み方は、「邪推」を生む。別の言葉で言えば、陰謀論だ。
さよう。私は、震災以来、陰謀論が大きな力を持ち始めていることに懸念を持っている。 陰謀論は、いつの時代にもある。 私が学生だった当時も、それは、知的な人たちの心を捉えていた。ここで「知的」という言葉をあえて使ったのは、オリジナルの陰謀論を発明するためには、一定の教養が不可欠で、デキの良い陰謀論には、それなりに秀逸な観察が含まれているからだ。
事実、昭和の時代の陰謀論は、もっぱら知的な人々の娯楽だった。 「キミたち、ニクソン・ショックは、穀物メジャーの陰謀ですよ」 「中東戦争の真の狙いは、中東の原油価格を上昇させることによってアメリカの国産原油を採掘可能な採算ベースに乗せることだったわけだよ」 「知ってるか? アポロの映像って、ハリウッドで撮ってるらしいぞ」 「ブッシュさんが宮中晩餐会でゲロ吐いたのって、あれ、わざとだよね」 「ゴルバチョフのおでこのアザはフリーメーソンへの忠誠の証ですよ」
というこれらの立論は、その真偽はともかくとして、もっともらしいものから笑えるネタまで含めて、それなりの教養がないと楽しめないお話だった。特に、時事問題をベースにした陰謀説は、国際常識や、地政学や、一定の歴史教養がないと、意味を解することができない。だから、昭和のキャンパスにおいて、陰謀ネタをたくさん知っている人間は、こまっしゃくれた学生仲間の間ではなんとなく尊敬されてもいたものなのだ。ついでに申せば、陰謀論を好んだわれわれは、必ずしもそれらを本気にしていたわけではない。あくまでもハイブローなゲームとして楽しむことが、その種の議論を弄ぶ際の不文律で、本気になって悲憤慷慨するのは、野暮な態度と見なされていた。
ところが、ネットという培地を得た21世紀の陰謀論は、秘密の社交的議論である立場を離れて、悪い意味で大衆化している。
悪い意味というのは、ひとつには陰謀論を語るメンバーの知的水準が低下したということであり、もうひとつは、その陰謀論を本気にする人たちが大量発生しているということだ。要するに、陰謀論は、それを語るメンバーの拡散によって質的に低下し、低質化することによって大衆化し、大衆化することによって凶悪化したわけだ。
陰謀論の真骨頂は、 「こういうふうに考えたら面白くないか?」 「こっちから見るとこんなふうに見えてあらまあびっくりだぞ」
という、見立ての奇天烈さと、その奇橋な見立てを本当らしく見せる論理の鮮やかさにある。だとすれば、その場で笑って使い捨てにされるのが陰謀論の宿命でもあるし、潔さでもある。
その意味からすると、本気にされることを期待している21世紀の陰謀論は、そもそも邪道なのだ。
過ぎ去った時代を惜しむわけではないが、インターネットが登場する以前は、与太話にも固有の愛嬌があった。俗流心理学や、ニューエージ怪談や、UFO目撃譚や、ユダヤ陰謀論といった、まかり間違えば相当に有害な話でも、昭和の学生トークは、到達範囲が限られているという意味で安全かつ特権的で、それゆえ、どんなに不埒千万な内容であっても、行きずりの茶飲み話として楽しむことのできるものだった。デマも中傷も罵詈雑言も同様だ。ネットを得る以前、あらゆるジャンク情報は娯楽として消化可能な範囲にとどまっていたのである。
だが、もはやそういう時代は終わった。 インターネットという世界規模の増幅回路に回収された与太は、与太のままでは終わらない。ある場合には有害不滅なゴシップに成長するし、別の場合にはより深刻な情報犯罪を構成する。どっちにしても無事では済まない。個人名を特定できる中傷は、言った者と言われた者の双方を致命的に傷つける。悪意のない事実であっても、そこに立場を超えた言及が含まれていれば、発言者の社会的生命を奪いかねない。
で、震災からこっち、ネット上では、マスメディアを敵視するタイプの陰謀論が猖獗を極めている次第だ。 「日本のマスメディア(←「マスゴミ」と呼ぶ連中もいる)はひとつに結託して情報を統制している」 「商業メディアは事実を隠蔽している」 「記者クラブメディアは取材チャンネルを独占し、権力と癒着している」 「東電の影響下にある放送局は原発に批判なジャーナリストを排除している」
と、こういうお話を本気でコピペして歩く面々が大量発生しているのだ。匿名掲示板を根城に騒いでいるだけではない。ツイッター経由で、メルマガ経由で、彼らは、上記のような言説を繰り返し発信している。それも実名で、だ。
どういう神経なのであろうか。 雪が降るのはスキー産業の陰謀のせいではない。 が、陰謀論に固執する人たちは、あらゆる害悪について、「犯人」を探そうとする。
彼らは、「そのことによって利益を得る誰かが背後で動いている」という形式でものを考えることを好む。しかも情報については、「メディアが報じた部分にではなく、報じなかった部分に、より重要な真実が含まれている」と信じこんでいる。 ということは、彼らにとって、世界は見えているあり方とは反対の姿をしているわけだ。
実に厄介な観察だ。 理屈はどうにでもつけられる。 風が吹けば桶屋が儲かる式の論理は、実用上の詭弁としてほぼ無敵だが、陰謀論は、この論理に、「犯人」を仮定することで、より強力な構造を獲得させる。 震災以来、目的のためには、手段を選ばないタイプの論説が勢いを得ている。 通常の意味で言う報道というよりは、プロパガンダに分類したくなるような記事だ。
脱原発を志す人々や、逆に原発の再開に望みを託している人々が、それぞれの主張を補強するために、自分たちに有利な材料を集めにかかることは、ある程度仕方のない傾きであるのかもしれない。
でも、おかげで、メディアにはバイアスのかかった記事が流れるようになっている。そして、そのバイアスが、メディアに対する不信感を生み、そのメディアに対する不信感が奇妙な陰謀論を成立させてしまっている。とても厄介な事態だ。
陰謀論を語る人々は、選民意識を抱いている。この部分は、昭和の時代から変わっていない。彼らは、自分たちが一般人の知らない情報にアクセスしており、ふつうの人間がたどり着くことのできない洞察を抱いているという共犯意識のようなもので結びついている。
結局のところ、 「マスコミが一般人を洗脳している」 という主張は、 「オレ以外はみんなバカだ」 と言っているのと同じことであり、その種の陰謀論を共有している人たちは、なによりも愚民思想によって連帯している仲間なのである。
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No.4243 - 2012/03/06(Tue) 16:49:22
| ☆ Re: Re: / チョロ | | | | ケーキ屋さん、こんばんは。日本においては洗脳報道はありえない。
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No.4254 - 2012/03/09(Fri) 23:02:09 |
| ☆ Re: / ケーキ屋少尉 | | | >日本においては洗脳報道はありえない。
チョロさんじゃ何故日本において酒タバコは合法で大麻所持が非合法か合理的な説明をしていただきましょう。
洗脳なんて別に特別なことじゃありません。ワイドショーなんて日常茶飯事でしょう。
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No.4255 - 2012/03/10(Sat) 06:14:28 |
| ☆ Re: / しゃしんやさん | | | チョロさんの気遣いを無にしちゃいけません。大麻は麻薬じゃないとかいうイカレタ書き込みをごまかしてくれているのに、あんたときたら全く無視するなんて。 大麻所持がなぜ非合法かといえば、総じて反社会的な薬物だからというのが一応の答えになると思う。酒にもタバコにも中毒性があるとはいえ、大麻の場合は非合法かつ高価で発覚時の社会的リスクが大きいにも関わらず、手を出す人が後を絶たないという程です。この依存性は危険でしょ。他には、覚せい剤の場合だと、寝ずに働くためとか生産的な方向性があるけど(使い続ければいずれは廃人になる)、大麻はウッドストックでラブアンドピースとかフリーセックスにふけったり、むさ苦しいヒッピーが世界中を放浪するとか、非生産的で爛れた感じになりますよね。ケーキ屋さんは日本をそういう堕落に追い込みたいんですか。 蛇足だけど、石油文明からの独立と大麻の合法化の関連性を合理的に説明していただきたい。人に突っかかってばかりいないで理路整然と他人にわかるよう書き込みをしてください。
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No.4256 - 2012/03/10(Sat) 08:12:06 |
| ☆ Re: / ケーキ屋少尉 | | | 戦前は大麻は合法でした。しかしあの時代フリーセックスな社会じゃありません。ケシの実は七味の原料の一つですが蕎麦を食うたびにラリっている人を見たことがありません。
>大麻の場合は非合法かつ高価で発覚時の社会的リスクが大きいにも関わらず
紋別に自生してますよ。アイヌねぎと同じであんなもの無料ですよ。発覚時云々というのは非合法にしているからであって、品物そのものが悪いわけじゃありません。
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No.4257 - 2012/03/10(Sat) 08:57:44 |
| ☆ Re: / 帰ってきたおしえてちゃん | | | このスレッドはM78さんが他人の発言を長々引用するネットオタクであることを証明していると思いますが、ケーキ屋さんが砂糖と油脂と小麦粉の過剰摂取についてどうお考えなのかは興味があります。 何せ紋別あたりで「ケーキ屋」なんて職業が成り立つのですから。
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No.4259 - 2012/03/10(Sat) 09:08:15 |
| ☆ Re: / しゃしんやさん | | | webで少し見てみたところ、日本に自生する大麻は薬効がかなり少ない種類なんだそうですね。だからといって大麻取締法は緩くはなりません。仮に悪法であっても法は法です。自生といえども所持自体が禁止されています。法が悪いと主張しても警察は大目に見てくれません、絶対に。 私は、割れ窓理論、小さな割れた窓や落書きでも放置し続ければ加速度的に治安が悪化するという考え方を支持しています。大麻の合法化は社会にとって有害だと主張しているんです。 石油文明からの独立と大麻合法化の関連性はどうなりました? 改めて説明を求めます。 大麻を吸いながらつい変な書き込みをしてしましましたか?
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No.4260 - 2012/03/10(Sat) 11:18:33 |
| ☆ Re: / ケーキ屋少尉 | | | だから「合法」にしなさいといっているのですけど。
>大麻を吸いながらつい変な書き込みをしてしましましたか?
私はお酒で他人に迷惑を掛けたことないし。タバコもすいません。ハワイで日本人がマリファナパーティーしてても誘われたこともありません。
>石油文明からの独立と大麻合法化の関連性はどうなりました? 石油で出来るものは大麻で代用できるのです。
>悪法であっても法は法です。自生といえども所持自体が禁止されています。
知ってるってだから「合法化」しようと訴えている。何のための国会だよ。例えば覚せい剤は認可された製造用法には合法なんですよ。大麻もそうすれば良いといっているのです。常習性が問題なら幾らだって品種改良は可能だし、どうにでもなる話ですよ。大麻も許認可事業にしてモグリだけ摘発すれば良い。
自分の頭で考えないで思い込みだけで判断すると馬鹿な結論が導き出されるのです。
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No.4261 - 2012/03/10(Sat) 13:53:18 |
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