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『思想』(8月号)に掲載された楊海英教授の論文について(by テレングト・アイトル ) ----------- 岩波書店『思想』2012年第8号には、静岡大学の楊海英教授による「植民地支配と大量虐殺、そして文化的ジェノサイド」という論文が掲載されました。 素晴らしい論文でした。 すべてのモンゴルに出自を持つ研究者、もしくは日本・中国・モンゴルにかかわる人類学・歴史・言語・政治・社会などの分野の研究者、あるいは多少とも帝国と植民地、中心と周辺、近代化と環境・エコロジー、強権・暴力と人権・民族問題に関心のある方々ならば、この論文を読んで、だれもが衝撃を受けずにはいられないでしょう。 その著者の長年現地調査に基づいた見地と、熟考にして導き出された批判的思考の生々しさにきっと刺激とインスパイアを受けるに違いありません。 というのは、それは少なくとも、一人類学研究者の著者の自己言及・自己批判から始め、人類学それ自体に反省を促しただけでなく、近代化ないし現に進行しつつあるアジア全体の発展(学問自体をも含む)にも疑問を突きつけているからです。 そして、われわれ研究者は、一体何者か、われわれの研究結果が一体何のために奉仕してきたか、あるいはさらにわれわれ掲げてきた近代化(資本詩主義にせよ、社会主義にせよ) とは一体どういうものなのかという、エドワード・サイードと共に深刻な問いかけをし、学問の内部から告白しているようにも受け止められます。たしかに固定観念・イデオロギー・抑圧的な伝統・偽りの文化所為など、もろもろのものを反省し、改めて学問の俎上にかけるべきだということが痛感されます。 その情熱的な文章が急所を突くような鋭い洞察力に富み、著者の高みを目指す意志が体制・イデオロギーを越え、民族愛にとどまらず、自然と平和を愛するすべてのヒューマンに訴えているようにも受け止められます。 どうかぜひ一度読んでみてください。 テレングト・アイトル
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No.1894 2012/08/06(Mon) 02:17:51
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