王進忠と中国青年報《氷点》編集長李大同様
1999年度小岩G公開学習会 「中国の憲法改正と言論の自由の行方」レジュメ
講師:石塚迅氏(一橋大学大学院)
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●はじめに
○近年の中国の人権をめぐる動き ☆前進の事案 ・『国際人権A規約』署名(国内において未批准)(1997年10月) ・魏京生氏仮釈放(1997年11月) ・王丹氏仮釈放(1998年4月) ・『国際人権B規約』署名(国内において未批准)(1998年10月) ★後進の事案 ・「中国民主党」断罪(1998年9月〜10月、12月判決) ・「法輪功」取締まり(1999年7月非合法化、10月取締法)
○1999年3月、第9期全国人民代表大会第2回会議において憲法改正 ・「?ケ小平理論」の明記(前文)、社会主義法治国家の建設(第5条)、公有制を主体とする多種の所有制経済と分配制度(第6条)、家庭の請負経営を基礎として統一と分配を結合する二重経営体制(第8条)、個人経営経済・私営経済の保護(第11条)、「反革命活動」の名称変更(第28条)等。 ・『1949年共同綱領』、『1954年憲法』、『1975年憲法』、『1978年憲法』、『1982年憲法』(1988年、1993年、1999年部分改正) →憲法の軽さ?安定性と融通生
I. 「無法無天」(法的無秩序)、文字獄(激しい言論弾圧)から「民主と法制」へ
○「文化大革命」以前の立法 『反革命処罰条例』(1951年2月公布) 『治安管理処罰条例』(1957年10月公布) 『国家機密保護暫行条例』(1951年6月公布) 『プロレタリア文化大革命における公安工作の強化に関する若干の規定(公安六条)』(1967年1月公布) →内容はあいまいかつ漠然。言論の自由の恣意的な制限・抑圧。 →法的基準よりも政治的基準 ・毛沢東「人民内部の矛盾を正しく処理する問題について」(1957年) ・・・言論が正しいかどうか、はたして香花(芳しい花)なのか毒草なのかを見分ける六項目の基準: 「1,全国各民族人民を分裂させるのではなくて、その団結に有利であること。2,社会主義的改造と社会主義建設に不利ではなくて、社会主義的構造と社会主義建設に有利であること。3,人民民主主義独裁を破壊したり、弱めたりするのではなくて、この独裁を固めるのに有利であること。4,民主集中性を破壊したり、弱めたりするのではなくて、この制度を固めるのに有利であること。5,共産党の指導から離れたり、これを弱めたりするのではなくて、この指導を固めるのに有利であること。6,社会主義の国際的団結と全世界の平和を愛する人民の国際的団結を損なうものではなくて、これらの団結に有利であること。この六カ条の基準のうち、最も重要なのは社会主義の道と党の指導の二カ条である。」
○法制の整備、再建設(1978年以降) ・「文化大革命」における人権蹂躙に対する深刻な反省。 ・『1982年憲法』の制定。 ・基本的法律の制定。→『刑法』(1979年7月公布)、『刑事訴訟法』(1979年7月公布)、『民法通則』(1986年4月公布)・・・
II. 言論・表現の自由関連立法概観
○言論・表現の自由関連連立法の整備をどう評価するか? →人権の保障か、それとも制限か?
1)現行憲法の規定 ・保証の条文(第35条、第40条、第41条、第47条) ・制限の条文 思想の自由の否定(「四つの基本原則」)(前文、第1条第2項、第24条) 国家・集団の優位(第51条、第52条、第53条)
2)言論の自由(狭義) ・「公益上の制限」 『刑法』(1997年3月改正)=国家安全危害罪(旧反革命罪) 『国家安全法』(1993年2月公布) 『治安管理処罰条例』(1986年9月改正) 『国家機密保護法』(1988年9月公布) 『戒厳法』(1996年3月公布) ・「個人的利益からの制限」 →他人に対する侮辱・誹謗の禁止
3)出版の自由 ・『出版管理条例』(1997年1月公布) ・『音像製品管理条例』(1994年8月公布) ・『印刷業管理条例』(1997年5月公布)
4)集会・行進・示威の自由 ・『集会行進示威法』(1989年10月公布)
5)結社の自由 ・『社会団体登記管理条例』(1989年10月公布、1998年10月改正) ・『邪教組織の取り締まり、邪教活動の防止・処罰に関する決定』(1999年10月採択)
III. 反革命煽動罪(国家安全危害罪)について
○1997年3月、刑法改正 ・「反革命罪」→「国家安全危害罪」 ↓ 1999年3月、憲法改正 ・「これは、我々の国家がすでに革命の時期から、社会主義現代化建設の推進に集中的に力を注ぐ新たな時期に突入したことを考慮したものである。国家体制及び国家全体の利益の保衛から考慮し、法律の角度からみた場合、国家政権、社会主義制度の転覆等の中華人民共和国に危害を与える犯罪行為を国家安全に危害を与える犯罪活動と規定することが的確であり、この種の犯罪活動を処罰するのに有利である。1997年に第8期全国人民代表大会第4回会議が採択した新刑法は、すでに『反革命罪』を『国家安全危害罪』に改正している。今回の憲法の改正で、『反革命の活動』を『国家の安全に危害を与える犯罪活動』に改正することは、刑法の実施を推進することについて、よりよく新しい状況に適応することができ、国家の安全に危害を与える犯罪と闘争を進めるにあたり、積極的意義を有している。」(喬暁陽氏、1999年)
○反革命煽動罪(国家安全危害罪)適応事例 ・言論行為自体を処罰する根拠条文 =『旧刑法』:反革命煽動罪(第102条) →『新刑法』:国家分裂罪(第103条)、国家政権転覆罪(第105条) ●「魏京生事件」(1978年〜1979年) ・事案の概要:魏京生という人物が執筆、発表した「五番目の近代化、民主主義およびその他」、「民主主義かそれとも新たな独裁か」等の民主化を要求する文書が反革命宣伝煽動罪(『反革命処罰条例』第10条)に違反するとされた事件である。 ・検察官の主張:「マルクス・レーニン主義と毛沢東思想および社会主義革命は憲法(『1978年憲法』)に記載されている根本原則であり、公民がみな遵守すべき行動の準則である。」「魏京生氏が行った反革命的な宣伝煽動は安定と団結を破壊し、動乱をもたらし、正常な社会、工作、生産秩序を妨害した。」「言論の自由については、それは『四つの基本原則』の上での自由であり、それを擁護する自由があるだけでそれを破壊する自由はない。」 ・魏京生氏の反論:「反革命概念はあいまいで歴史的に変化する概念である。」「現在の指導当局の意志に従ってやるのが革命であり、現在の当局者の意志に反対するのが反革命であるという考え方、『権力即真理』という考え方には同意できない。」「民主主義は中国にとって不可欠なものであり、自分の行為は反革命にあたらない。」「思想、理論は相対的なもので、言論、出版の自由の原則に基づいて、理論的考察と思考の結果を他の人との間で交流することは犯罪を構成しない。」 ・判決:懲役十五年、刑期満了後政治的権利剥奪三年、反革命煽動罪の適用基準は示されず。
○中国に政治犯はいない〜中国政府の基本的立場 ・1991年11月「中国の人権状況」(「人権白書」) 「中国に政治犯はいない」 →「中国では思想だけあって、刑法にふれない行為は犯罪を構成しない。いかなる人も、ただ異なる政治的観点を持っているからといって刑罰に処せられることはない。中国にはいわゆる政治犯はいない。中国刑法に規定される『反革命罪』とは、国の安全に危害を及ぼす犯罪を指す。つまり国家政権と社会主義制度を覆す目的をもっているだけでなく、刑法第91条から第102条に列挙された犯罪行為を行うことである。たとえば、政府転覆の陰謀や国家を分裂させる行為を行ったり、凶器を持って大勢の人を集めて叛乱行為を行ったり、スパイ行為を行う等がそれである。国の安全に危害を及ぼすこのような行為は、どの国であろうと懲罰を受ける。」 ・「天安門事件」等の民主化運動の指導者に対する反革命煽動罪の適用、1998年12月「中国民主党」結党を企図した首謀者に対する国家安全危害罪の適用についても、中国政府は、以上のような基本的立場を堅持。
IV.言論・表現の自由関連立法の問題点
○「文化大革命」の時期と比較すれば一歩前進 ・法律上、言論・表現の自由の保障と制限を明確にしようとしたことの表れ。 ・法学者は法律、法規を制定することにより言論・表現の自由の制限における政治的判断、配慮を可能な限り排除しようと企図。
○国権・治安の強化と公民の権利の保障は統一的 ・社会主義制度の下では、根本的にいえば、国家の法律と公民の自由は統一的で、対立的ではない。 ↓確かに、 法律はある自由を制限している、 ↓しかし、 このような制限はまさに、公民全体がより十分に、広範に、有効に自由、権利を行使できるよう保証するためのものである。 ↓さらに、 (言論・表現の自由は中国では政治的権利、自由に分類さていれる。) ↓したがって、 社会主義制度の下、我々が法律の形式を用いて、公民の政治的自由、権利を明確、具体的、詳細に規定しなければならない重要な要因の一つは、公民の政治的自由が侵犯を受けず、濫用されないことを保証するためである。
○国権・治安の強化という側面 ・1840年「アヘン戦争」の敗北以降、中国は半植民地の過程へ。 →反植民地主義、反帝国主義闘争の中で、国権主義的な色彩の強い人権思想が形成される。 国家・民族の生存への強い関心=救国 国家・集団・民族優位の理論 「敵・味方の理論」 ↓ 1,思想の自由の否定(「四つの基本原則」)。 2,国家・社会・集団の利益優先(『憲法』第51条)。 3,言論行為自体の祖罰(国家安全危害罪)。 4.言論・表現の自由の制限範囲の広範性。
○公民の権利の保障という側面 ・「天賦人権論」の拒絶、否定。 「要するに、人の権利は『天賦』ではなく、国家、法律が賦与し、規定したものである。人の権利は普遍的ではなく、鮮明な階級制をもつ。人の権利は象徴的ではなく、具体的なものである。人の権利は絶対的ではなく、法律と道徳により制限を受ける。人の権利は永久的、固定不変のものではなく、人々の物質生産条件の中での作用と地位の変化に伴い、その性質と適用範囲を変化させる。異なる社会政治制度の国家は異なる階級的性質の権利を有する。これがマルクス・レーニン主義の人の権利に関する基本的観点であり、それはブルジョア階級の『天賦人権』説とは基本的に対立するものである。」(谷春徳氏、1982年) →言論の自由を含む「公民の権利」は法律によって初めて保障、実現され、そして、法律により当然に制限できる。 ↓しかし、 5,違憲審査制の未確立をはじめとする権利救済制度の不十分制。 ・憲法実施の監督制限は全国人民代表大会およびその乗務委員会に賦与されている(『憲法』第62条第2号、第67条第1号)。 →『1982年憲法』制定以来、監督権限の行使は一度もない。 ・出版、集会、結社の不許可処分の違憲性、違法性について争う手段は、行政機関に対する不服申立のみ。行政訴訟の提起は不可。
●おわりに
○「Rule by Law(法による支配)」から「Rule of Law(法の支配)」へ ・政治的配慮、判断による言論・表現の自由の恣意的な制限をいかに排除するか?
○共産党の指導という障害 ・共産党も憲法を遵守しなければならない(前文、第5条)。=憲法体制の枠内 ↓しかし一方で、 「四つの基本原則」の明記。「四つの基本原則」は憲法の指導思想であり、言論の自由の範囲のおおざっぱな基準(言論の自由の制限根拠かつ制限基準)。 ↓つまり、 「四つの基本原則」に反対する言論は公表することができないだけでなく、反動言論と認定され、言論自体が反革命煽動罪(国家安全危害罪)として処罰の対象となる場合がある。 ↓そして、 「四つの基本原則」の堅持は公民の義務。 「四つの基本原則」の解釈権は共産党が掌握。=共産党が超憲法的存在。 ↓したがって、 政治的判断、配慮による言論の自由の恣意的な制限の可能性。
○憲法、法律から政治性を除去していく努力 ・中国法学界の議論の行方。 自然権の再評価。 憲法訴訟制度の確立。 言論の自由の位置づけの再検討。 ・刑法改正と憲法改正。 「?ケ小平理論」の明記(前文) ↑ ↓ 社会主義法治国家の建設(第5条)、「反革命活動」の名称変更(第28条)
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No.11 - 2007/06/23(Sat) 21:51:33
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