「六四」天安門事件十八周年記念集会
アムネスティ・インターナショナル日本、 茶井市明(ちゃい・いちあき) 講演要旨
一、 中国で天安門事件に遭遇したのが、アムネスティへの入会動機
皆さん、こんにちは。今日[きょう]は、絶好の行楽日和[こうらくびより] でしたが、ようこそ集会へいらっしゃいました。 こういう良いお天気の日ですと、私は、1989年=平成元年、中国甘粛省にいた ころを思い出します。あの年の4月、5月には、甘粛でも、学生や市民たちがたく さん民主化デモに参加しました。その雰囲気は、とてもなごやかなものでして、 おととし[2005年]の反日暴動とは、全然違うものでした。 しかし、この民主化デモは、6月4日、天安門事件で鎮圧され、多数の死者を出 しました。このことが、私がその後、アムネスティに入ることになった大きな理 由です。
二、 アムネスティとはどういう人権団体か
では、アムネスティとは、どんな団体でしょうか。アムネスティは、特に、国 家権力による一般市民への人権侵害を扱う団体です。 その大きな特徴として、「良心の囚人」=世間で言う政治犯、の救済をめざす、 ということがあります。彼らは、犯罪を行なっていないのに、政府と思想が違う、 或いは思想が違うと見なされたため、逮捕・投獄されてしまった人たちです。こ れは不当なことですから、彼らをただちに無条件で釈放しなさい、と、我々は当 局にうったえるわけです。
また、特別な国家や政党を対象としない、という特徴もあります。今日は、天 安門集会なので、中国共産党に批判的な話題が多くなってしまいますが、批判そ のものが目的なのではありません。「中国共産党だから悪い」のではなく、「中 国共産党のしていることが悪い」のです。だから、中国共産党も人権侵害という 行為をやめれば、それでいいわけです。 これと関係しますが、政権の正当性も問いません。中国共産党は1949年の革命 でたくさんの中国人をCENSORED強引に政権を樹立したわけですが、そのことも特に 言いません。良心の囚人の釈放を求めて、手紙書きをする時も、相手方の肩書き は、認めます。例えば、胡錦濤なら「国家主席」と書きます。 それから、誤解のないよう民主化団体との違いも申しあげます。民主化という のは、医療に譬えるなら、「治療」より「予防」に重点を置くものだと思います。 社会で人権侵害という「病気」が起こらないように、「体質」の改善を行なうこ とだと思います。 一方、我々は、「予防」より「治療」を行ないます。既に人権侵害が起こって しまった場合には、これに対処するということも必要なわけです。
三、 アムネスティが扱う具体的事例
次に具体的にアムネスティが行なうことを申しあげます。 たとえば、「良心の囚人」救援のための文書を発行します。その文書では、投 獄された人物の名前、事件の概要、嘆願書の宛て先、例文等を提供します。 その事例は、あまりにも多過ぎて、今日のこの短い講演では言い切れません。 こういう講演会を毎週、この場で行なって、一年間説明しても、終わるかどうか わかりません。 今は、ごく一部を紹介いたします。
たとえば、法輪功の梁文堅[りょうぶんけん、Liang Wenjian]さんたち。 [日本語訳] http://www10.atwiki.jp/ai-kunitati/pages/26.html 法輪功の思想や運動そのものについて、アムネスティは、どのような立場も取 りません。ただ、法輪功は、暴力や犯罪を伴うわけではないですから、それを行 なうのは本人の自由です。ですから、法輪功の人たちを投獄するのは不当であり、 私たちは彼らの釈放をうったえます。また、法輪功の人たちは、法輪功の思想を 放棄するよう獄中で拷問を受けるという情報がよく入ってきますが、もちろん、 拷問にも、私たちは反対します。
それから、脱北者、つまり北朝鮮[朝鮮民主主義人民共和国]から主として中 国に逃げていく人たち、です。本国に強制送還されたら、人権侵害の恐れがある 場合、その人たちを本国に送還してはならない、というのは国際的な決まりです。 北朝鮮政府は、脱北者を投獄・拷問・処刑しますから、私たちは中国政府に、送 還するのはやめなさい、とうったえるわけです。不幸にして、送還されてしまっ たら、今度は北朝鮮当局に、人権侵害をしないよう要求します。最近の例では、 北朝鮮の二軍人の事件があります。 [日本語訳] http://www10.atwiki.jp/ai-kunitati/pages/20.html
日本と直接関係するところでは、東大留学生のウイグル族、トフティ[拓和提、 Tohti]さんの事件があります。 [日本語訳] http://www10.atwiki.jp/ai-kunitati/pages/24.html トフテイさんは、一時帰国して新疆の図書館で調べものをしていた時、図書館 員が立ち会って、合法的な文献の目録を見ていたにもかかわらず、「国家機密漏 洩」と「分離独立主義」で、懲役11年の刑を受け、今も刑務所の中にいます。ト フテイさんに会った人は、みな「トフティさんは新疆独立に反対だった」と言っ ています。 このように、政府に反対していないのに、政府から「反対した」と見なされて、 投獄される人もいるわけです。
また、アムネスティは、しばしば報告書も発行します。2006年には、北京オリ ンピックに関する報告書を出しました。 [日本語訳] http://www10.atwiki.jp/ai-kunitati/pages/27.html http://www10.atwiki.jp/ai-kunitati/pages/28.html これは、中国政府から非難を浴びました。ということは、中国政府は、この報 告書を無視しているのではなく、気にしている、ということです。
四、 アムネスティの六四天安門事件十八周年声明文
アムネスティは、声明文もいろいろ出し、特に天安門事件については、毎年、 六月四日が近づくと、發行しています。今年もそうです。 [英語原文] http://web.amnesty.org/library/Index/ENGASA170332007?open&of=ENG-CHN 基本的な思想は、これまでに出された声明と変わるものではなく、要約すると、 次のようになります。 「事件の見直し」。中国共産党政府は、「悪い者たちが暴れたから取り締まっ たのだ」と、弾圧を正当化していますが、一般の学生や市民が多数殺されたこの 事件について、そういう位置づけを見直すよう求めます。 「釈放」。天安門事件にからみ、政治的理由で投獄された人たちを、釈放する よう求めます。 「補償」。事件で殺された人たちの遺族や、傷つけられた人たちに補償するよ う求めます。 「刑罰」。人々への殺傷を命令・実行したことは、犯罪ですから、法律に基づ いて刑罰を与えるよう求めます。私怨による報復を求めるのではありません。
もう少し、先を読んでいきましょう。
天安門事件の時、四川省成都市で警察に殴り殺された当時十五歳の周国叢[し ゅうこくそう、Zhou Guocong]君のお母さんに、2006年5月、当局からお金が支 払われました。しかし、それは、「生活苦を助ける」という名目であって、「補 償」ではありませんでした。
中国の当局者は、オリンピックに先だって、「完全な報道の自由」を約束しま した。しかし、この約束は守られていません。 天安門事件で殺された学生の母親である学者の丁子霖[ていしりん、Ding Zilin]さんは、同じ境遇の人たちと「天安門の母親」というグループを結成し て、本を書きましたが、この本は出版を禁止されたのです。アムネスティは、ひ きつづき彼女たちを支持していきます。
中国当局による抑圧は、中国国内だけにとどまりません。天安門事件を描いた 映画『サマーパレス[頤和園=いわえん]』がセルビアで上映されようとした時、 中国政府はセルビア政府に圧力をかけて上映を中止させました。
天安門事件関係で投獄されている良心の囚人は、必ずしも、1989年の事件の時 に捕らわれた人だけではありません。仮に、1989年に懲役18年の刑を受けたとす れば、今年[2007年]には社会に出てくることになりますが、実際は、1989年の 後にも、新たな良心の囚人たちが生まれています。
孔佑平[こうゆうへい、Kong Youping]さんは、2004年、インターネット上で、 天安門事件を見直すよう意見を述べたため、懲役15年の刑を受けました。ですか ら、釈放されるのは2019年のことになります。 1989年の時の学生指導者でもあった李建平[りけんぺい、Li Jianping]さんは、 ウェブ・サイト上で中国の政治を批判したため、2006年、懲役2年の刑を受けま した。 師濤[しとう、Shi Tao]さんは、天安門事件十五周年の2005年、ウェブ・サイ トで中国共産党を批判したため、懲役10年の判決を受けました。
アムネスティは、1989年の被害者救援活動をしている人たちへの弾圧にも反対 しています。 例えば、胡佳[こか、Hu Jia]さん。この人は、河南省でエイズ患者たちを救 援していることでも有名です。そこの人々は、性行為が原因ではなく、売血の時 に器具が不潔だったため、エイズに感染してしまいました。胡佳さんは、天安門 事件の被害者たちのための活動もしようとしましたが、そのため、「自宅軟禁」 されてしまいました。 斉志勇[せいしゆう、Qi Zhiyong]さんは、天安門事件で脚を撃たれて障害者 となり、その後は事件の他の被害者たちを応援する活動をしていますが、警察に よって監視されています。
五、 釈放された人たちもいる
暗い話ばかりしてきたので、明るい話もしましょう。 アムネスティは、これまで多くの良心の囚人の救済を訴えてきましたが、世界 中の人々が共鳴して釈放を求めたため、実際に釈放された人たちもいます。
例えば、王万星[おうばんせい、Wang Wanxing]さん。この人は、天安門事件 の三年後の1992年に、天安門広場で事件を記念する行動を取ろうとしたところ、 「政治的偏執症」という実際には無い「病名」のもと、精神病院に入れられ、良 心の囚人となってしまいました。しかし、多くの人々が救援活動を行なったため、 釈放されました[2005年]。
レビヤ・カデル[ラビア・カディル。Rebiya Kadeer]さん。ウイグルの女性実 業家で、かつては世界女性会議の中国代表でもありました。しかし、新疆の新聞 を米国に送ろうとしたところ、これが「国家機密漏洩」とされ、懲役8年の刑を 受けました。しかし、世界中の人々の救援活動により、釈放されました[2005年] 。
最後に、私が尊敬する中国の歴史人物、朱子のことばを紹介いたします。 [講演者補足: 厳密には、朱子自身ではなく、朱子の門人の発言のようであ る。島田虔次『大学・中庸』朝日新聞社「傳第五章」参照] 木を切ることは簡単ではありません。斧を一回入れても、少ししか切れません。 しかし、そういうふうに、一回、また一回と斧を入れていくと、ついには、大き な木も倒れるのです。 私たちも、少しずつ努力を積みかさねていきましょう。そうすれば、人権侵害 という大木は、必ず倒れます! ありがとうございました。
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No.32 - 2007/07/05(Thu) 02:17:14
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