〜月光の下〜
「久しぶりに琴線に触れたライブだった」
彼とサポ−トメンバ−とお客さんが一つになっていた。 Sくん一人でのステ−ジしか僕は経験がなかったのだが,リ−ドギタ−&パ−カッション&バンジョ−の共演はとても楽しく充分な聴き応えがあった。 何にも増して,彼のギタ−とボ−カルが以前より確実に良くなっていたのだ。 特に唄は,上辺だけをなぞっていてやや力任せだった感のあるあの頃よりも「芯」が出来たと言ったらいいのだろうか。 細かなミスやズレなど,そんなものはたいした事じゃないんだと感じさせる、パワフルで暖かなパフォ−マンスだった。 アンコ−ルの大合唱の中,Sくん達が再び登場。 嬉しい驚きはその直後に待っていた。 「え〜、僕は他人(ヒト)と曲をつくった事はないんですけど、多分これからも。でも唯一そうして作った曲があります。 今晩はその方が来ているので、これをやらない分けにはいかないかなと・・・」 ちゃんと憶えてるかなと言いながら,演奏スタ−ト。 「ただ風の中で」 イントロを聴いた瞬間,僕は身体の中を何か「熱いもの」が駆け巡るのを感じていた。 「この曲はやっぱりこの位のアップテンポがいいな」 その昔,彼とそんな話をしていた夜を憶い出していた。 Gさんの満足そうな笑顔が見える。 僕はその時思っていた。 またここから,様々な人との触れ合いが始まるのだろうと。 アンコ−ル曲が続く中,陶器のグラスを持ち上げ、口に運ぶ。 「湯気」は既に消えていた。 幾度同じ思いを繰り返そうとも「やはり人が好きなのだろう」そう思った。 彼の唄と人々の熱気が溢れた店内には,とても素敵な時間が流れていた。 「珈琲をいただけますか」 僕はスタッフに,今宵最後のオ−ダ−を掛けていた・・・
「人は些細な事で擦れ違い,他愛ない事で誤解を解いたりもする。 自分の正義が必ずしも他の人の正義と同じとは限らないのだ」
久しぶりの再会を果たしたあの夜から暫くした後(のち),僕はSくんを連れ、Kくんの店「えん」を訪れた。 僕としては二人に昔の関係に戻って欲しいという思いからの行動だったのだが,思惑は見事に外れる結果となってしまった。 僕は年下であるSくんが,兄貴分でもあったかのようなKくんに、短くてもいいから「不義理」をしてしまった事を謝る言葉を発して欲しかったのだ。 Kくんには「時間が出来たら俺達のテ−ブルにも来てよ」と言ってあったのだが,オ−ダ−を受けたり、運んできたりする事以外、彼が留まる事はなかった。 二人は何度か店内でニアミスはしていたのだが,結局最後までちゃんとした言葉を交わす事はなかったようだ。 いつもは見送りに出てきてくれるKくんも,この日は忙しくテ−ブルを周り、終始客の注文を聞いていた。 「空いた時間帯もあったんだけどな」 その背を見ながら,スタッフのKsくんに送られ店を出た。 驚いた事に,KsくんはSくんのファンで、彼の歌も唄えますという話だった。 駅までの道すがら,Sくんと話しながら思っていた。 僕には計り知れない何かが,Kくんにも、Sくんにも、もしかしたらあるのかもしれないと。 今夜の行動は彼等の為ではなく,自己満足の為におこした、ただの「余計なお節介」だったのかもしれない。 「時」には,人の心を癒してくれる「何か」もあるのだろうが、人の心を尚更「硬化」させてしまう成分が含まれているのも事実のようだ。 そんな事は分っていた筈なのに。 「二人には悪い事をしたかな」 少々苦い思いを抱きながら,次はあのライブの夜のサポ−トメンバ−も交えて飲もうと約束し、Sくんとは駅で別れた。 「いつか・・・」 僕は信じている。 そう,いつか近い将来「わだかまり」が緩やかに溶けて「えん」でテ−ブルを囲み、再びまたあの頃のように、陽気に酒が酌み交わせるようになれる日が来る筈だと、そんな日がきっと来る筈だと。 冴え冴えとした月光の下で「その日は必ず来る」と呟いていた。
「その時は・・・Bくん、君もね」
誰の上にも時が優しく流れますように。 そう祈らずにはいられない夜だった・・・
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No.161 - 2007/03/04(Sun) 20:29:20
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