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記事No.170に関するスレッドです

風が吹くと寒気が冴える / タラオ・バンガイ
無法松さんは、成瀬さんの映画では「おかあさん」と「流れる」がお好みとか。
「流れる」は、下町の雰囲気も良く描かれていて、成瀬名人芸の趣があります。
往年の大女優・栗島すみ子まで引っ張り出して、なんとも贅沢な配役でした。
幸田文女史の原作は「素人」の女中(梨花)の眼(幸田さんの視点だが)から
見た「玄人」の世界、花柳界の話で、かなりシニカルに描写されています。

幸田さんは文豪露伴の娘と言うことで、戦後颯爽と文壇に出て来られましたが、
文学修行苦節何十年の女流作家達の反発は、かなりのものがあった様です。
平林たい子が幸田さんのことを書いた文を読むと、それこそ意地の悪いものでした。
この辺のニュアンスは室生犀星の「黄金の針」と言う女流作家評伝でも判ります。

映画なので後味を良くするためか、女中の「視線」は消え、代わって置屋の娘
(勝代)がシラッ〜と見ています。演じた高峰さんが当時もう少し年令が
上だったら、原作通りの女中梨花を演じていたかもしれません。

女将の蔦奴を山田五十鈴、通い芸者の染香を杉村春子が演じ、共に名演でした。
山田扮する蔦奴が、クリームを小指でほんのチョット取って、その僅かなものを
顔から手まで刷り込む姿は、一見華やかに見える花柳界の裏の倹しさを表し、
演出も演者も「お見事」としか言えない技でした。

後年、この作品は日比谷の芸術座で、梨花に乙羽信子を加え、山田、杉村で
芝居として上演され、チケットは完売の人気でした。再演の時は初日を即購入
して行きました。隣の席に脚色した女流作家が居ました。この脚色がTBSの
ホームドラマもどきで、見ていて腹が立ってなりませんでした。但しこれはあくまでも
私の感想です。演出は文学座の戌井市郎氏でしたが、彼の手腕があったればこそ、
何とか見られる芝居に仕上がったと思っています。

昭和30年代の半ばTVが普及し出した頃、NHKでこの「流れる」をドラマ化
したことがありました。脚色は舞台版の演出者・戌井さんで、染香は杉村、
梨花は三益愛子、蔦奴は沢村貞子さんでした。インテリの沢村さんはむしろ女中役
の方が、玄人の世界を観察する「眼」が感じられて良かったかも知れません。
珍しいことに、これには原作者の幸田さんが、ナレーションで参加していました。
中でも「風が吹くと寒気が冴える」は、少々甲高い幸田さんの声と共に記憶に
残っています。原作にはない言葉でしたが、きっと作者の他の随筆から採った
ものと思います。今頃の季節になるとこのナレーションが思い出されます。

No.170 - 2007/11/10(Sat) 21:00:35 [p1118-ipbf309fukuokachu.fukuoka.ocn.ne.jp]

Re: 風が吹くと寒気が冴える / 久留米無法松
タラオ・バンガイさん、本当に日本映画そして演劇の世界に精通されておられ、敬服いたします。是非今度本にしてください。裏も表もよくご存知で、本職の評論家だってこれだけのことを書かれる方はいないと思います。こちらは歌手にしろ俳優さんにしろ、実像にはあまり関心がありません。歌手が歌う歌が、俳優が演じる芝居が胸を打つものであればいいと思っています。それでもやはり人の子、多少それ以外のことで好き嫌いというのが出てしまうんですね。
「流れる」は映画以外は見ておりません。うらやましい・・・

No.172 - 2007/11/16(Fri) 06:27:18 [61-24-15-45.rev.home.ne.jp]