野球を覚えたのは小学3年生の頃だったか。 お父ちゃんがグローブを買ってきてくれてキャッチボール。そこから始まった。 お父ちゃんが投げる。キャッチする。お父ちゃんに投げる。キャッチされる。お父ちゃんが投げる。キャッチする。お父ちゃんに投げる・・・ 好きなバンドがレコードを発売し、そのレコ発に行く。彼らがインタビューで影響されたグループの名前を出し、そのグループの音源を探す。あの感じ。
野球に夢中になった。 いつでも指をグローブにハメていたい。いつでもボールを揺らしていたい。いつでもバットを握っていたい。
ひとりでできる事を覚えた。 市道沿いに並ぶコンクリート塀にボールを投げつける。リバウンドしたボールをキャッチする。 投球練習と守備練習が同時にできる。グラウンドにいるような。 なんて合理的なんだろう。ひとり二役さ。 落語家の話芸(わげい)。ひとりでノリとツッコミ。その場所(シチュエイション)にいるみたいな気になっちゃう。あの感じね。
ボクはロックが好きだ。 ギターもちょっとだけ弾く事ができる。けど、やっぱりレコードを聴くところから始まったから。 履歴書の“出身地”項目には『ロック・リスナー』って記すぜ。
好きなバンドがレコードを発売したら発売日に買う。レコ発ツアーに参加する。雑誌のインタビュー内容や写真の中でのメンバーが着てるTシャツ・デザインに感嘆する。 まるで、あの日のキャッチボールみたいじゃないか。
1994年に買った音源がある。 ニッポンを代表する作詞家の方が全曲で詞を担当したアルバム。1曲目は『突然 雨が降ると』。 ♪突然 雨が降ると 人間の正体がわかる 突然 雨が降ると 人間の正体がわかる♪ 当時の衛星放送の音楽番組に出演したそのバンド。リード・シンガーの女性はしゃがれてるけど甘味がかった、まるでビター・テイストのチョコレイトみたいな、声でこう言った。 「阿久 悠さん(の詞)っておっきいのよ。まるで3分女優よね。突然雨が降ると〜って唄ったら『なんであんたが〜』って気持ちになっちゃうの」。
先日、その女性の訃報を受けた。 あまりに突然すぎて。ボクには現実味がまるでなかった。だから涙がひと粒も流れないんだ。自分でも信じられないけど。本当の話さ。 突然 雨が降ると。突然 雨が降ると。
雨が上がったら、レコードを聴こう。 でも、彼女が唄う新作をもう買えない。レコ発ライブにはもう参加できないんだ。 ボクは一方的に向こうに向かって声を投げかけるばかり。 まるで、あの日のコンクリート塀みたいに。 そして、まるで、あの映画みたいじゃないか。
「Sheena ! Come Back ! Sheena ! Come Back !」
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No.1185 - 2015/02/18(Wed) 00:00:42
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