『To Know Him Is To Love Him(会ったとたんに一目ぼれ)』という曲があります。 ヒム(彼)の部分がハー(彼女)やらユー(あなた)やらになったりして、いろんな人にカバーされている。これは、多様性を持っているということでしょう。もしくは、スタンダードという言い方もできると思う。時空を超えている。国境を超えている。世代を超えている。本日の天候もカンケーねぇ。職場の上司の機嫌もカンケーねぇ。そういうことです。 邦題もいい。アッタトタンニヒトメボレ、だなんて。ニッポン語の語感とリズム感。そして、彼とか彼女とかあなたという言葉をあえて入れなかった、というセンス。性別を超えている。すばらしいタイトル。そう思うけど。
ぼくが「彼女」に出会ったときは、どうだったんだろう。 なにがきっかけだったか。いきなり目の前に現れたわけではなかったような気もする。音楽仲間がカセットテープにダビングしてくれて聞いたけど、まあまあな感じでバンド名だけを覚えたのか。あいまいな記憶。会ったとたんに一目ぼれではなかったんだ。 ある日、そのバンドのレコードをレコード屋の90年代パンクロック・コーナーで見つけた。3人が写っている。女性ひとりと男性ふたり。ブロンド髪の女性のお綺麗なこと、お綺麗なこと、お綺麗なこと。購入した。部屋に戻って聴いた。ばっちりな楽曲と演奏、そして彼女の唄声。いいね、いいね、いいね。
全14曲収録の中の11曲目『FUNNY FACE』という曲が流れてきたときに「このバンドはすごい」と確信した。キンクスの『WATERLOO SUNSET』やスモール・フェイセズの『ALL OR NOTHING』と同質の響きをその曲に感じたんだ。ミドル・テンポで哀愁あふれるメロディー。だけど悲しくならない。それは秋の夕暮れの美しさ。明日もなんとかなるら。そんな風景。 作詞作曲とギターを弾きながら歌を唄っている彼女にぼくは惚れてしまった。彼女はKim Shattuck。バンドはTHE MUFFSというんだ。
バンドはブランクを挟みながらも作品を発表し続けた。彼女が作る楽曲は変わらない部分を残しながらも深化していった気がする。見え隠れするルーツ・ミュージックの香り。それはぼくが目指している音楽姿勢そのもの。ますます惚れてしまった。 今年の8月、「そういやぁ、マフスって新作出してるのかなあ」ってインターネット検索をした。ロック雑誌もめっきり読まなくなったし、ネットでの情報検索もしないのでちょっぴり気になったんだ。ちゃっかり発表してそうなバンドだし。でも検索ヒットしなかった。「彼女のことだで、そのうち音源発表するら」ぼくは自分に言い聞かせてひとり納得したのさ。
10月某日。キムの訃報を受けた。 「えっ?・・・」 世界中のマフス・ファンがそう思ったはずです。 悲報と時をおなじくして「今月中旬にバンドの新作が発表される」との情報をキャッチした。 キムの遺作だって?いや、違うな。 俺にとっての至宝のアメリカン・ロックンロール・バンド、ザ・マフスの新作。 そう思いたいんだ。 ねぇキム!ずっと惚れていますから。
写真:1995年発表、THE MUFFSのアルバム「BLONDER AND BLONDER」。 B面4曲目に『FUNNY FACE』収録。メンバー全員のサインは2011年11月の名古屋公演時に出待ちしてもらえた。当時、バンドは音源発売が止まっていたんでキムに「そろそろ新作を出してよ」って言ったら、彼女はぼくの目をじっと見つめて「うん、もうすぐ作るで待っててね」そう言ったのさ。バンドは3年後に新作を発表しました。
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No.1494 - 2019/10/06(Sun) 18:52:14
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