「おまえは おまえがヤリたいことを ヤリゃあいいんだよ」 誰かがわたしの耳元でささやいたような気がした。 マキシマムでちっちゃな声……言い換えるのならばミニマムな声で、そうささやいた。ような気がした。 ヤリたいことをヤル、つまりこれは「おまえはおまえの道をゆけ」ってことか。 英語変換するならば「ゴーイン・マイ・ウェイ」ならぬ「ゴーイン・ユア・ウェイ」ってことか。
わたしが在住する団地の片隅に道幅6メートルのふたつの市道が交わる場所がある。 つまり交差点、十字路だ。 東西南北に渡るふたつの道路のうち、実質的交通量や、たたずまいから判断すると、どう考えても東西の方が優先道路に感じるのだが、道路標識的には南北が優先なのであった。 いくらブルース・リーさんが「考えるな、感じろ」つったって法律は法律です。 だから、ここでは不定期でおまわりさんが東西車両の一時停止無視の監視を行っているんだ。
昨年春の自治会回覧板で、その交差点における優先道路の変更告知がされた。 東西が優先、つまり一時停止なしになり、南北が一時停止する、という告知だった。 だがしかし、それは即行されなかった。 今年1月、これまで優先道路であった南北も一時停止表示された。 つまり、東西と南北どちらの通行車両も止まるってわけさ。 それ以降、まるでお見合いみたいに、東西南北の車両のみなさんが十字路でお辞儀の交換をした。 ゆずりあい、ありがとう。 案外、こんなところから「平和」ってものが生まれるのかも、と思った次第。
2月某日、ついに東西の市道の一時停止標識が撤去された。 路面上の「とまれ」って文字も消された。 東西通行車両が完全に優先となったのだ。 でも、不思議なことに東西を行き交う車両のいくつかは、その場所でついつい一時停止をしてしまう。 「習慣」ってやつがようやく手に入れた「自由」の邪魔をしているのさ。
自分が歩むべき道の極意を手に入れたいがために、十字路で悪魔と取引をした男の伝説を聞いたことがある。 ならば、件(くだん)の十字路におけるわたしたち一般市民側はロバート・ジョンソンであり、取り締まるあっち側は悪魔ってことか。 でも、よく「自分本位で物事を考えてはいけない」と言うから、他人本位で考えるとわたしたちが悪魔であっちがロバ・ジョン、ってことになるのか。
うーむ、「自分本位で物事を考えてはいけない」って言葉は、なんて自分本位な言葉なんだろう。 やっぱり「俺は俺の道をゆけ」ってことか。
B.G.M.「HARRY/Bottle Up and Go」 ハリー、2003年発表のアルバム。 3曲目に『十字路に立って』収録。 いいアルバムです。
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No.1589 - 2021/03/09(Tue) 00:30:08
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