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記事No.1636に関するスレッドです

鉄砲にまつわる話 / 淳吉郎
「ねぇ、パパ」
「どうした?」
「こっち向いて」
「ん?」
「発射ぁ―っ!」
「うわっ! つめてぇー! なんだお前、水鉄砲か?」
「そうだよ、佐藤くんに貸してもらった」
「ったく、サトーはロクなもんをお前に貸さんな」
「ねぇ、パパ」
「どうした?」
「パパみたいな大人になれば、本物の鉄砲を撃つことができるの?」
「いやいや、できないできない」
「え? だってアメリカでは本物の鉄砲を使えるって佐藤くんが言ってたよ」
「ったく、サトーはロクなことをお前に教えんな。そもそもここはニッポンだら」
「だよね……でも、ぼくが大人になったらアメリカ行って、本物の鉄砲を撃ってみたい」
「ふうん。でもアメリカなんか行かなくても鉄砲を撃つことはできるよ」
「ほんと?」
「うん。ただし、的(まと)は人間でも動物でもないんだな、これが」
「???」
「マシンガン・ギターっていう鉄砲がこの世にはあってな。ロックンロールが大好きなひとのハートを狙い撃ちするんだ」
「ギターから弾丸が飛び出るって、なんか漫画みたいでスゴくない?」
「あはは、うん、確かに漫画みたいだな。でもホントの話だぜ。だってパパはそのひとのライブに行ってこの眼で確かめたんだから」
「すげっ! なんていうひと?」
「ウィルコ・ジョンソンっていうイギリス人さ」
「アメリカ人じゃなくってイギリス人なんだ? ぼくもいつか会えるかな?」
「もちろん。おまえがロックンロールを好きになれば会えるはず。だって、ウィルコは今でもパパの心のなかで生きてるんだから」

B.G.M.「WILKO JOHNSON/窓からはい出せ」
1980年発表のウィルコのソロ・アルバム『ICE ON THE MOTORWAY』のA面5曲目に収録されているボブ・ディランのカバー曲。
世界中の多くのひとがディランのあらゆる楽曲をそれぞれのアレンジでカバーしています。すばらしい。
ぼくの声質はしゃがれ声やダミ声、ましてや青空を突き抜けるような端麗な声でもない、残念ながら。
だがしかし、ウィルコのこのカバーを初めて聴いた時「すげぇーっ! カッコいいーっ!」って唸り声でも叫び声でもない声をぼくは発してしまった。らしい。
そう、その声はまるで、線の細い音色のテレキャスターをカール・コードを使ってフェンダー・アンプに直結でつないでいるくせに、暴力的にやさしく響くウィルコのギターのように……だったのかな? だったらいいのに。

No.1636 - 2022/11/25(Fri) 00:02:55