20代の頃だったか。奇妙な体験をした。『体験した』と言うよりもその事象に『遭遇した』と呼ぶべきかもしれない。なぜなら誰でもそこに行けばそれに遭遇できるからだ。奇妙な体験ができるのだ。 その頃(20代の頃)はよく上京した。つまり東京へ行ったって事。でも歌や小説や映画などの媒体で描かれるような“上京物語”なんかとはちょっと違うかな、俺の場合。だって上京したってホテルで一泊して帰路、場合によっちゃあ日帰りだもん。「ヒトハタ挙げるぜ!男なら!」なんつって、ちょっとばかし自己顕示欲って名のスパイスがまぶされたような“夢”を叶えるために行くんではないのだ。ただライブを観るために行くんだ。ただ絵を観るためだけで行くのさ。それだけの理由。ハママツでは観る事が不可能なライブや絵だから。そんな状況物語。か。 東京へ行くのには様々な手段を用いる。今でもね。JR線やら高速バスやら場合によっては友人のクルマに同乗とか。ある日、とある事を知った。それが“奇妙な体験”に直結するきっかけとなったよ。当時は今みたいにインターネット検索して数秒で結果が解かる時代じゃない。列車に乗るにも時刻表で調べるだとか知り合いから教えてもらうとか。そんな時代さ。そして知ったんだ♪ジャカジャァ〜ン 小田急線っ ジャカジャァ〜ン♪って。まるでマーシャル100Wアンプリファイヤー直結でレスポール・カスタムをブチかますような音圧でその名前が出てきたぜ。小田急線さ。 ハママツからJR東海道本線にて小田原まで。そっから私鉄小田急線。おまけに知ったのは上手く行けば急行車両で早めに着けるって事。東京に(詳しく言えば新宿駅ね)。実は「普通料金で乗れる急行車両」なんてシステムにハママツの市民は慣れていないのだよ。だからこれにはビックリした。いきなり「はい!プレゼントっ!」つってビートルズの1stシングルの初回プレス盤をプレゼントされたような気分だったさ。 小田急線の急行車両は新宿駅に着いた。そして、そこは、小田急線の終着駅だった。2本のレールは断絶され、行く手を阻むようなコンクリートの壁が屹立していたのさ。♪線路は続くよ どこまでも♪なんて歌はウソっぱちだったのさ。 俺はこうして“物事の終わり”みたいなものを体験したのさ。 ☆★☆★☆★☆★☆ 西暦2011年4月9日。ROCK BAR LUCREZIAが閉店した。6年間に渡って営業したルクは終わってしまった。ルクに行き続けたボクらは、きっと『SOUL TRAIN LUCREZIA』なんてイカシタ名前の列車に乗っていたのかもしれない。ガタゴトと揺れる車内の席に座ったボクらはユラユラと酔っ払いながら目の前の車窓からいろんな景色を眺めていたのさ。オール・ジャンルと言ってもいいほどのライブしかり、DJイベントしかり、パフォーマンスしかり、そして落語までも。景色が変わり続ける旅ほど面白い物はないだろ。そんなSOUL TRAIN LUCREZIA。それは急行だったのか・・・各駅停車だったのか・・・ 日が替わった4月10日午前9時の改札口で俺は6年間使い続けた切符を手渡した。列車のオーナー:よしのさん、機関士:青ちゃん、そして乗務員以上の役割を果たした乗務員:わっち君に。 あの日、小田急線の終着駅に着いた俺は目的の場所に向かって歩いて行った。んで、あの日と同んなじようにソウル・トレインを降りた俺は次の場所に向かって歩いてゆくのさ。そして、おそらく、たぶん、確実に、よしのさん、青ちゃん、わっち君も歩いてゆくに決まってる。それぞれの場所にゆくのでしょう。俺はそう思ってる。 ♪ピーっ♪ おっ!?プラットホームから駅員さんが次の列車の発車の合図をしたようだぜ。 ところであなたはどこへゆくのかな? ROCK BAR LUCREZIA、ありがとう。お世話になりました。 B.G.M.「DAVID BOWIE/ZIGGY STARDUST」
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No.896 - 2011/04/12(Tue) 23:01:31
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