◇「古い電車で新しい価値を」大津の輝きとり戻すモニュメントに
「歴史的な名車」と言われた電車の車両保存のため、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」で知り合ったメンバーがNPO法人「京津文化フォーラム82」(大津市)を設立。今月1日で丸3年を迎えた。現役当時の状態に手を加えない「生きた保存」と、車両に新たな役割を与える「活(い)きた保存」を合言葉に、文化を発信する試みを続ける。地元の自治会や教育機関も「市外の人たちが大津の街を盛り上げてくれている」と注目している。【深尾昭寛】
大津市錦織の京阪電鉄錦織車庫の一角に、京阪80形(82号)が現役当時のまま保存されている。「技術の京阪」といわれた同社の傑作車。鉄道路線として国内屈指の急こう配があった京阪京津線(京津三条―浜大津)を走るため61年、当時の最新技術を投入してデビューした。欧州風の外観などが沿線で愛されたが、97年に同線の京津三条―御陵区間が京都市営地下鉄に切り替わる際、大半が解体に。2両のみが浜大津留置線に残った。
02年9月、その2両も解体されることがネット上で話題になり、京都府長岡京市、会社員・ウェブデザイナー、橋本光弘さん(33)=NPO理事長=や東京都葛飾区、経営コンサルタント、黒田一樹さん(34)‖同専務理事兼芸術監督‖らが保存に立ち上がった。アポイントなしに京阪電鉄事務所に飛び込み、解体寸前だった車両の無料譲渡を受けた。その後は第三者に引き取ってもらおうと考えていたが、引き受け手が見つからず、現在は京阪の土地に賃料を払って置いている状態。「絶対うまくいかない」「非現実的だ」など、ネットで批判を浴びることもあったという。
03年6月、メンバーによる保存を当面続けるためNPO法人を設立。▽展示のための改造はせず、現役当時のまま保存する「生きた」保存▽車両に新たな役割を与える「活きた」保存を掲げる。「古い電車で新しい価値を創(つく)り出そう」と呼びかけ、車内で現代アートの展覧会を開いたり、毎年10月の「大津線感謝祭」での特別公開などに挑戦。試行錯誤で始めたが、その活動は美術雑誌を飾るなど注目を集めている。
「保存を通じていろいろな人とつながるかもしれない」。そんな期待も、保存活動のきっかけだったと話す橋本さん。現在、メンバーは京阪大津線のホームページ制作やイベント事業に参画し、大津の街や人との関係を深めている。「大津は観光資源の宝庫。いろいろな偶然が重なってここまできたが、82号が大津の輝きを取り戻す一つのモニュメントになれば」。いつか再び82号が走る日を夢にメンバーらは活動を続ける。
京阪大津線の公式ページ[毎日新聞 6/6朝刊記事より引用]
京阪京津線には思い出があります。三井寺へ行ったり坂本からロープウエイに乗ったり、蹴上から女の子と京阪三条まで乗ったりしました。一枚も電車の写真を撮らなかったのが残念でなりません。